2019.10.23
僕のカルマ Vol.1追い風がきている
ここにきて、運が向き始めている。
会食の店へ向かうタクシーの中で、氷室は自分を後押しする追い風を確かに感じていた。
彼が勤務する法律事務所は、最大手のファームには到底及ばない規模だが、ロンドンやパリ、ベルリン、ボストンといった世界の要所とのネットワークを持っており、海外案件に強いと言われている。
最近も、クロスボーダーの超大型M&Aを手がけたことで注目された。
今となっては、自分はこの法律事務所に入るべくして入った、と強く思う。
司法試験で、あの一文の解釈さえ間違っていなければ、四大法律事務所のどこかには入れただろう。だが、その四大事務所で、この歳でパートナー候補にまでなれたかと言われれば、その自信はない。
鶏口となるも牛後となるなかれ。
そんな故事成語が思い出される。
−俺の選んだ道は正しかった。
氷室は、自分を褒め称えるように呟いた。
◆
法曹界は、外資系金融やコンサルティングファームと同じくらい厳しい世界だ。成果が出せなければ、新卒であろうと肩たたきの対象になる。
また、2、3年目になっても往生際悪くしがみつこうとする連中には、美人局によるハニートラップや偽エージェントによるヘッドハンティングなど、強烈な対処法もあると聞く。
そんなバカなこと…と思っていたが、どうやら事実のようだった。
それを思い知ったのは、司法修習の同期・藤田の件。彼は真面目ではあったものの、真面目がすぎて堅物ともいうべきその人柄は、良い意味でも悪い意味でも有名だった。
そんな彼が、久しぶりに同期で飲んでいたところに、とんでもない美女を連れてきたことがあった。
藤田の恋人らしいその女は、白い肌にほんのりと赤い頰が色っぽく、その場にいた男の視線をかっさらった。皆に注目された彼女は、スポットライトを浴びた国民的女優のように光り輝いていた。
「結婚しようと思っている」
皆の前で高らかに宣言した彼は、愛おしそうに彼女の肩を抱いた。
−弁護士の肩書きって、すげえな。
あの地味な藤田があんな美女と付き合えたのは、弁護士の肩書きがあってこそだろう。弁護士連中は皆、「俺も頑張ろう」などと、密かに思ったものだ。
そんな藤田が行方をくらましたのは、それから半年後のこと。聞いたところによれば、あの美女に機密情報を漏らしてしまい、辞職に追い込まれたようだ。
最初は驚いたものだが、各方面からの情報を総合すると、どうも事実らしいということがわかってくる。そう。彼はハメられたのだ。
−そっちの方がコストかかりそうなもんだけどな。確実にクビにできるならそっちの方がいいのか…。俺も、パートナーになったらそういうことも考えていかなくちゃな。
そんな空想を楽しんでいるうちに、会場に到着したことを運転手が知らせる。
−このカードも新しくしないとな。
そろそろインビテーションがくるはずのブラックカードを想起しながら、氷室は白金色のカードを運転手に渡した。
【僕のカルマ】の記事一覧
2020.01.08
Vol.13
「仕事も女も、一瞬で失った…」年収2,000万超えのエリート男が転落した、本当の理由とは?
2020.01.07
Vol.12
「自分は勝ち組」と調子に乗り、家庭を顧みなかったエリート男の末路。「僕のカルマ」全話総集編
2020.01.01
Vol.11
「もしかして、ハメられてた?」美人秘書と火遊びした弁護士の男に、下された天罰
2019.12.25
Vol.10
リビングに、不穏な物が…。夫の行為に対する、姿を消した妻からの仕打ちとは
2019.12.18
Vol.9
「まさか、妻のしわざ…?」エリート夫を震え上がらせた、写真付きのメール
2019.12.11
Vol.8
「彼女は、心のオアシスなんだ」仕事に勤しむエリート男が、本能で取ってしまった行動
2019.12.04
Vol.7
「彼女を見る目が変わった…」。秘書の女と一晩過ごした男の、胸の内とは
2019.11.27
Vol.6
「どうか私をお使いください…」。エリート男の理性を狂わせた、禁断の相手とは
2019.11.20
Vol.5
「あの場所が、僕のシェルターだった」。今をときめく社長の原点となった、壮絶な出来事とは
2019.11.13
Vol.4
妻を置き去りにし、夫はホテルで一夜を…。順調だったはずの夫婦に訪れた悲劇とは
おすすめ記事
2020.05.30
お試し夫婦
お試し夫婦:「AIが私にピッタリの男を選んでくれる…?」30歳になった女に届いた案内状
2018.11.15
美しいひと
「絶対に許せない...」大好きな男が二股されていた。彼を救うため、整形美女がとった行動とは
2022.11.05
男と女の答えあわせ【Q】
ある日突然、半同棲中の彼氏に「家から出ていってほしい」と告げられた女。その理由は…
2016.12.08
チヤホヤされたい東京妻
チヤホヤされたい東京妻:禁断の既婚者限定お食事会。まだ私は、女として通用するのか?
2021.11.09
推す女
推す女:世帯年収2,500万・豊洲在住のDINKS妻。ある日、結ばれることのない年下男に恋をして…
2020.05.29
キッチン・マン
「どうしても気になる」好きな子のSNSを逐一チェックする、28歳男の本音
2019.03.23
Who?
「彼女に嘘をつき続けるのが苦痛…」早朝、女の部屋から静かに去った男の、誰にも言えない葛藤
2018.09.16
有馬紅子
「彼女には、私さえいればいいの」。憧れの女性から全てを奪い始めた、女友達の歪んだ執着
2017.01.13
部屋見るオンナ
部屋見るオンナ:年収700万の32歳。東麻布での同棲解消後、苦難の部屋探しスタート!
2016.09.15
ラール・エ・ラ・マニエール
ラール・エ・ラ・マニエール:元モデルが抱え続ける焦燥感。「何者」にもなれない自分に価値はない?
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.04.23
今日、私たちはあの街で
3回目のデートで、終電を逃した28歳女。翌朝、男が激しく後悔したワケ
2024.04.23
Editor's Choice~fashion~
最大10連休のGWのお出かけに!カラフルなミニボストンバッグが、万能な理由とは?
2024.04.25
Editor's Choice~beauty & wellness~
すれ違ったときに香るぐらいが好印象!大人のニオイ対策には、上質なランドリーアイテムを取り入れて
2024.04.26
大人の週末ToDoリスト
GWは東京でヨーロッパ旅行気分! 『イタリア展 2024』や『フランス展 2024』などイベント3選
2024.04.28
Editor's Choice~gourmet~
最高に気持ちいい空間で、ラグジュアリーな外飲み体験!今から楽しめるビアガーデン6選
この記事へのコメント