御三家。
それは、首都圏中学受験界に燦然と輝く、究極の伝統エリート校を指す。
男子は開成・麻布・武蔵。女子は桜蔭・女子学院・雙葉。
5万人ともいわれる首都圏中学受験生の頂だ。
挑戦者を待ち受けるのは、「親の力が9割」とも言われるデス・ゲーム。
子どもの頭脳、父の経済力、そして母の究極の献身が求められるこの戦場に、決して安易に踏み込むなかれ。
運命の2月1日、「真の勝者」は誰だー。
有栖川宮記念公園は、雪化粧だ。
灰色の曇天からひらひらと雪が舞い、足元をすくわれないように一歩一歩進む。
まるで世界中の音が雪に吸い込まれてしまったかのように、周囲はひっそりとしていた。
さっきまで張り裂けそうだった心臓の音さえも、もう聞こえない。緊張がピークに達すると、こんな風になるらしい。
それは、私にとって生まれて初めての経験だった。
傍らの翔は、ただまっすぐ前を向いていた。ぎゅっとカバンのベルトを握りしめ、その手が白くなっている。
12歳。いつの間にか身長はわたしとそう変わらなくなっていた。
頭の中で、彼の受験番号を反芻する。
角を曲がると、テレビカメラ数台、列を成す塾の腕章をした講師たち、そして受験生とその父兄が見える。
校門から校舎まで続く花道のような通路を、両親と支えあうように進んでいく子どもたち。私と翔も、後に続く。
視界が開け、校庭の一角に、「合格者 受験番号」という掲示が目に入る。
不意に、遠のいていた心臓の音が、激しく耳元でこだまする。遠目に、合格者の人数は、あまりにも少ないように思われた。
「翔…」
思わず呼ぶと、翔は今まで見たどんな顔よりも大人の顔で言った。
「ママ、ここで待ってる?俺ひとりでみてこようか」
―そんなわけない。そんなわけがない。
勝っても負けても。あの掲示板に番号がなくても。
「ママも行く。翔と一緒に見るよ」
私にとっての勇者は君だ。
私たちは、歩み寄り、前進し、そして仰ぎ見た。
東京都、私立男子校御三家。麻布学園中学校の、合格者掲示板をー。
この記事へのコメント
素敵な話になっていくといいなぁー!
中学受験までは親子の受験であることは間違いないけどね。
東カレ層収入以下でも御三家通ってる子は多いと思うし小学校受験とちがって、「金持ちじゃないと受験出来ない」なんてこと無いですよ。反抗期にも入ってるし母親が献身的過ぎて奴隷になるのも問題と言われる。
開成も本人の出来が悪くてついて...続きを見るけなくてやめる子もいるとききますから金次第じゃ無いですね、結局。
入ってからが勝負なのに受かることが目的の親が多いのでこの人たちもそうではないといいなと思います。
こんなすごい学校に合格した子どもを持つ自分がすごい!っていう、東カレ女特有の「自分の実力以外のところでマウント取りの見下し女」になりませんように。