「どうして浮気に気づいたのか?まあ…少し前から兆候は色々ありました。外で一緒に食事をしていてもチラチラとスマホばかり気にする。トイレに立つ時も必ずスマホを携帯し、肌身離そうとしない。明らかに私に対する干渉が減って、別々に過ごす週末が増えたなぁ…なんて思っていた矢先、ですよ」
疑惑が確信に変わることとなったのは、本当に偶然の出来事だった。
平井夫妻は当時お互いの職場へのアクセスを重視し、赤坂の賃貸マンションで暮らしていた。そして、夫の同僚夫妻もたまたまご近所に住んでいたのだ。
「その同僚の奥さまと、駅からの帰り道で一緒になったんです。そしたら彼女が私に、『先週ご主人とヒルズの映画館にいらしたでしょ?』なんて言うわけ。…それ、私じゃありません。その日は私、日頃の疲れを癒すべく、アマンのスパに行っていたから。
その場は適当に誤魔化しておきましたが、その日の夜、夫が寝てから彼のバッグの中を総点検しました」
真琴は完璧に気配を消し、夜中のリビングで夫のバッグを漁った。
「私だって、平穏な結婚生活を波立たせたいわけじゃない。それなら詮索するのをやめてしまえばいいわけだけど、片鱗を見つけたにも関わらず見て見ぬ振りをするのも…なんか、違うでしょう?」
しかし、真琴の“何も見つからないで”という願いは、あっさりと裏切られてしまう。
「まったく。なんだって男性というのはこうも脇が甘いのでしょうね?…ええ、出てきました。まさに目撃された日付の映画の半券が。それから、明らかに女性に買ったであろうジュエリーショップのカード控えや、ホテルの宿泊明細もね」
真琴は、それらの証拠品すべてをリビングテーブルに並べた上で、和也を叩き起こした。
「…彼は最後まで認めませんでした。映画の半券は一人で観たのだと言い張り、隣に女性がいたとしてもそれは赤の他人だって(笑)。ジュエリーショップの件は職場の後輩のために皆でプレゼントを買ったのだと言い、ホテルに関しても、飲みすぎて帰ると私に叱られるから、ダブルの部屋に一人で泊まったのだと。苦しい言い訳すぎますよね(笑)」
結局、どれだけ追及を繰り返しても、和也は浮気を認めなかった。だからと言って、真琴が夫の嘘を信じるわけがない。
絶対に黒なのに、グレーと言い張る夫。怒りをぶつける矛先さえ与えられず、悶々とした真琴はその翌日、最小限の荷物だけを持ってプチ家出を敢行した。
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