1/3のイノセンス ~友達の恋人~ Vol.1

1/3のイノセンス 〜友達の恋人〜:“親友”のレッテルを貼られてしまった女の悲劇

「女の子なら大歓迎」などと調子のいいことを言ってはいたが、敦史の提案は正真正銘、親切心から出たものだと思う。

しかしそのおよそ30分後、淡いブルーのワンピース姿で、全身から清楚な風を漂わせた優香がふわり、と現れた時。

私はすぐさま二人を引き合わせたことを後悔したのだ。

「初めまして。優香ちゃん、だっけ?沢口敦史です」

それは“女の直感”というべき種類のもので、敦史がそう言って微笑んだことも、優香が「お噂はかねがね」などと言って笑ったのも、何ら不自然なものではなかった。

ただ私は最初から言いようのない不安に胸を圧迫され、どういうわけかずっと息が苦しくて、敦史の視線が優香の目に、肌に、胸元に注がれるたび、締め付けられるような痛みと戦わねばならなかった。


「二人は、よくこうして飲んでるんでしょ?」

喧騒に包まれた恵比寿のビアバーで、優香の存在はまるで一輪の花のようだ。

彼女もまた仕事帰りに立ち寄ったはずなのに、髪も肌もさらさらとしている。決して大声を出しているわけではないのに、まるで鈴の音のように、優香の声は喧騒の隙間をくぐり抜けてよく通った。

ああ、そういえば...と、今更ながら思い出す。もう昔のことで忘れてしまっていたが、大学時代のテニスサークルでも、彼女はいつもそうだった。

どちらかというと控えめで、自ら話題の中心になるようなことはなく、皆の輪の端の方で静かに佇んでいるだけ。とりたてて美人かと言われると、決してそういうわけでもないのだ。

それなのに男たちの視線は、いつだって優香に注がれた。

「いいなぁ…本当に仲が良いのね」

心から羨ましそうに、優香はそう言って小さく息をはいた。テーブルに肘をつき、両手をあごに当てて、敦史を上目で見遣る。

その仕草は、女の私さえもドキッとさせる色気があった。

「いや別に…ただ暇なんだよ、俺たちは。なぁ、杏?」

数回瞬きをして、優香から視線を逸らした敦史は、これまでに見せたことのない表情で私に同意を促した。

明らかに動揺している。

そんな敦史の反応に胸を締め付けられ、私は「うん」とも「違う」とも言えぬまま目の前の二人を呆然と見つめるのだった。

そして次の瞬間、両手で口元を押さえてクスクスと笑っていた優香が、ハッと思いついたように視線を上げる。

「あ!ねぇ、もしかして杏…沢口くんと?」

大きな瞳をさらに大きくして、私と敦史を交互に見遣る優香。

すると私が言葉を発するよりも早く、敦史が即座にこう言ったのだ。

「違うよ。俺と杏は“親友”だから」


▶NEXT 7月13日 更新予定
敦史から“親友”のレッテルを貼られた杏。そして恐れていたことが現実となる。

この記事へのコメント

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No Name
急ぎで話したかった内容とかって、こう言うシチュエーションだと言いづらいことだろうに。なぜわざわざ呼ぶ?そしてなぜわざわざ来る?
2019/07/06 07:0599+返信4件
No Name
せめて友達には仲のいい同期ってだけではなく、好きって言っておけば良かったね。
ま、言ってたとしても彼が友達を好きになっちゃう可能性はあるけど(笑)

今後の展開は彼と友達が付き合うんだろうけど、結末が予想出来ないから楽しみ!
2019/07/06 05:2899+返信5件
No Name
タイトルが昭和 笑
東カレらしくなく純情な感情(笑)を貫いて、
マウンティング系の話にならないといいなー
2019/07/06 05:2361返信9件
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