恋心の本質は、エゴイズムだ。
それが片思いなら、尚更。恋をすると、独占欲や嫉妬心に身体中を蝕まれ、イノセントな感情なんてきっと1/3にも満たない−。
広告代理店でコピーライターをしている橋本杏(24歳)は、同期の沢口敦史(24歳)に淡い恋心を抱いている。
“友達以上”の態度をとる敦史に期待してしまう杏。しかし敦史が恋人に選んだのは…あろうことか、杏を最も傷つける相手だった。
これはある男女が過ごしたひと夏の、切ないラブストーリー。
−ねぇ。私のこと、好き?−
半歩先を歩く広い背中に。
電車待ちのホームで見上げた横顔に。
そっと心の中で問いかけたのは、一度や二度じゃない。
沢口敦史。
あなたにとって私は特別?それとも…。
◆
「おっと、時間だ」
デスクに置かれたスマホに横目で視線を送ると、敦史は慌てた様子で席を立った。
席といっても、敦史の席ではない。ここはクリエイティブ局。彼は営業で、自席は別フロアにある。
午後イチで打ち合わせがありクリエイティブフロアにいたらしい彼は、次のミーティングまでの隙間にわざわざ私の元へとやってきた。そしてまったくどうでもいい軽口を叩いて時間を潰していたのだ。
確か彼は今、週末に同期数人と参加したCAコンパでのバカ話を、面白おかしく披露していた途中だったはず。
しかし一方的に話を打ち切ると、敦史は周囲の視線を気にもせず、フロアの入り口から私に向かって叫ぶのだった。
「それじゃ、杏、19時にエントランスな!」
「わかった」と口を動かす私にニッと笑い、嵐のように去っていく敦史。
全く、もう。敦史のくだらないトークのせいで完全に集中力が途切れてしまった。敦史にはいつも調子を狂わされる。…けれど不思議と、嫌じゃない。
敦史が乱していった隣の椅子をそっと片付ける。
そして私は、もう何度繰り返したかわからない質問を、そっと心の中でつぶやくのだ。
−ねぇ敦史。あなたにとって、私は特別?それとも…。
この記事へのコメント
ま、言ってたとしても彼が友達を好きになっちゃう可能性はあるけど(笑)
今後の展開は彼と友達が付き合うんだろうけど、結末が予想出来ないから楽しみ!
東カレらしくなく純情な感情(笑)を貫いて、
マウンティング系の話にならないといいなー