2019.06.21
SPECIAL TALK Vol.57ITとの偶然の出合い。個人で大きなサービスを運営
金丸:大学生活はどうでしたか?
秋好:真面目に通ったかというと、そうでもなく、最初のうちは完全に昼夜逆転の生活を送っていましたね。
金丸:大学生にありがちです。
秋好:毎朝、『めざましテレビ』が始まってから寝て、昼に起きるという生活でした。でもあるとき、当時の森喜朗首相が『めざましテレビ』で、「これからは介護、バイオ、そしてイットの時代だ」と言っているのをみて。
金丸:「アイティー」と読むべきところを「イット」と読み間違えたときですね。話題になりました。
秋好:バイオと言われても難しくてよくわからないし、介護にはあまり興味がない。でも、ITは面白そうだなと。高校のときに習ったコンピュータの授業がめちゃくちゃ楽しかったので。それでITで何かできるんじゃないかと思って、その日、朝9時に近くの大型電機店が開くのを待ち、ソニーのノートパソコンをローンで買ってきました。それがすべての始まりです。
金丸:それまでファッション一色だったのに、一気に今の秋好さんに近づきましたね。
秋好:そうですね。一からプログラミングを学んで、パソコンとインターネットの世界にのめり込んでいきました。ホームページを作るのも何をするのも最高に楽しくて、大学にも行かず、一日18時間くらいパソコンをいじっていましたね。
金丸:生活もガラッと変わって。
秋好:2年間アメリカ村でふらふらしてて、家に帰るのは1週間に一度という生活から、ずっと家にいて部屋にこもり、パソコンに向き合うという生活に(笑)。
金丸:ご両親から何か言われなかったのですか?
秋好:いろいろ心配しながらも諦めていた節がありますね。ただ一度だけ、母親が部屋に突撃してきて、「ちゃんと生きてる?」と確認されたことがあります(笑)。
金丸:死んでるんじゃないかと(笑)。
秋好:そのレベルで引きこもっていましたから。そのうちホームページ制作の請負や、「価格ドットコム」の旅行版みたいなポータルサイトの運営をするようになり、「旅行」や「航空券」と検索すると、検索結果の一番上に僕のサイトが表示されるくらいヒットしました。サイト経由で航空券や旅行の予約があると報酬がもらえるため、当時は年間2,000〜3,000万円くらい稼いでいましたね。
金丸:「これだ」と決めたら、とことんやる。しかも結果がついてきているのが、秋好さんのすごいところです。
秋好:それも結局、お金を稼ぐのが楽しいというより、「インターネットはなんて楽しいんだ」という気持ちのほうが強かったから、できたんだと思います。自分のサイトに数十万人の人たちがアクセスしてくれる。無名の学生フリーランスでもこういう体験ができることに、インターネットの可能性を感じました。そんな学生生活だったので、両親には心配をかけましたが、最終的に大学を卒業したときは、めちゃくちゃ喜んでくれました。「やっとまっとうな道に戻ってきたのね、あなたは」と。
金丸:ご両親は秋好さんを信頼していたからこそ、何も言わずに見守ってくれていたのでしょう。
秋好:うちの母はちょっと変わっていて、高校のとき僕が全然勉強をしないものだから、何か刺激になればいいと思って、ケアマネジャーの勉強を始めたんですよ。その頃、介護保険制度ができたばかりだったので。
金丸:お母様は資格試験に合格されたのですか?
秋好:はい。でもあとになって、ケアマネジャーに興味があったわけじゃなかったと聞き、母に心配をかけたなと思いました。
金丸:それだけ心配しても、口を出すのではなく態度で示そうとするなんて、素晴らしいじゃないですか。そんなご両親をひとまず安心させられて、よかったですね。もしご両親が秋好さんに何かと口出ししていたら、服のことだけ考える生活も、ひたすらパソコンに向き合う生活も成り立たなかった。今の秋好さんは存在していなかったかもしれません。
大企業だから気づいた、フリーランスの可能性
金丸:さて、大学卒業の時点で、秋好さんにはすでに自分で立ち上げたITサービスがあったわけですが、そのまま事業を続けようとは思わなかったのですか?
秋好:それはなかったですね。当時勢いがあったドコモのiモードや、ライブドア、ヤフー、カカクコムのサービスを見ていると、とても個人で太刀打ちできるものじゃないと感じていました。会社勤めになれば収入が減るのはわかりきっていましたが、やはりインターネットの最前線を身をもって体験したかったので、就職することに迷いはありませんでした。特に狙っていたのが、カカクコム。僕はとにかく比較するのが大好きで、比較できるものはまだまだ世の中にいっぱいあるから、新しいサービスも生み出せるはずだと考えていました。ところが、カカクコムは新卒を募集していなかったんです。
金丸:今でこそIT企業の新卒採用は当たり前ですが、たしかに当時はほとんどなかったように記憶しています。
秋好:でもどうしても入りたくて、転職者のフリをして中途採用試験に潜り込みました。
金丸:大胆すぎませんか(笑)。
秋好:結局だめでしたけど(笑)。ほかにも数社受けた結果、サービスの企画や開発をやらせてもらえるということで、ニフティを選びました。でも入社して驚いたのは、インターネット業界の人たちが、そんなにインターネットが好きではなかったということ。24時間ネット漬けの人たちが集まると思っていたのに、全然そんなことはなかった。
金丸:「好きだから」とか「楽しいから」ではなく、お金を稼ぐための手段として選んでいる人がほとんどですよ。特に大企業になればなるほど、IT企業のあるべき姿から程遠くなっています。意思決定は遅く、組織は階層構造になってしまっている。だからこそ、即断即決で、フラットな組織のベンチャーが勝つ可能性が生まれるんですが。
秋好:実はランサーズの原案も、ニフティで企画書を作って提案までしているんです。
金丸:そうだったのですか。
秋好:担当している仕事とは全然関係なかったんですが、仕事上、外部のパートナーに発注する機会がよくあって。大抵の場合、外部のパートナーも大企業なので、仕事はきっちりしていて信頼性は高い。でも、納期に時間がかかるし、飛び抜けたクオリティというよりかは、安定した品質のものが納品される。
金丸:言ってみれば、可もなく不可もなくということですね。
秋好:あるとき、「これ、自分だったら土日でやれるな」という案件がありました。でも自分でやる余裕はなかったので、試しに知り合いのフリーランスに発注してみたんです。上司やほかの部署に説明して、稟議を通してと、正直面倒な部分もありましたが、やっぱり短納期で、しかも出来上がってきたもののレベルが高かった。
金丸:「これをシステム化したら」と考えたんですね。
秋好:おっしゃるとおりです。毎回面倒なプロセスを踏むんじゃなくて、オンラインで簡単に個人に仕事を発注できたらどんなに素晴らしいか。それにフリーランスの側からしても、名前の通った企業と仕事をすることは、収入の面でも業績の面でも助かります。みんなが喜ぶサービスになるはずだと思いました。
金丸:でも、結局企画は採用されなかった?
秋好:そうなんですよ(笑)。
金丸:それが起業につながったんですね。
秋好:だから、あのとき反対されてよかったと今では思います(笑)。実は先日、当時の上司と10年ぶりに会う機会があり、その人が「俺のニフティ時代の最大の功績は、あの企画書を蹴って起業家を生んだことだ」と(笑)。「ありがとうございます」とお礼を言いました。
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