SPECIAL TALK Vol.56

~制約がバネに、逆境が燃料になるということを、自分の人生を通じて証明したい。~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。神戸大学工学部卒業。1989年起業、代表取締役就任。

人生の羅針盤をもてば、迷うことはなくなる

金丸:最後に前田さんから読者へメッセージをお願いできますか。特に、向上したい気持ちはあるものの、壁にぶつかっている人たちに向けて。

前田:わかりました。ちょっと、暑苦しくなっても良いですか?というのも、できることなら、壁をあっという間に乗り越えられる魔法のようなツールを端的に教えられればいいんですけど、僕から一番お伝えしたいことは、最終的には、結局、精神論になってしまいます。

金丸:むしろ、そういう人には精神論以外に伝えられるメッセージはないかと。

前田:僕がいつも言っているのは、根源的な熱の大きさ、思いの強さが競争意欲をかきたてる一番の源泉だということです。だから「上に行きたい」と頑張っている人も、まずは「そもそも上に行きたいという気持ちは、本物なのか?」と自分自身に問う必要があると考えています。

金丸:なるほど。自分の心を見つめ直すことが大事だと。

前田:もっと上に行きたいと考えていても、手を抜きたくなったり、何かに寄りかかりたくなるときはあります。そこで休まずに前に行く人と、足が止まってしまう人の分かれ目は、思いがどれだけ強いかによるんです。

金丸:では、自分の思いが強いかどうかを確認して、そんなに強くなかったときはどうすればいいのでしょうか?

前田:そのときは、そこまで頑張らなくてもいいんじゃないでしょうか。僕自身は起業して、事業をもっと成長させようという人生を歩んでいますが、そういう人が正しいとか、そういう人生が「唯一の正解」とされるのは違うと思います。それに、ほかの生き方との優劣もないはずです。

金丸:幸せのかたちは人それぞれですからね。

前田:兄の家族を見ていると、心からそう感じます。この間も、兄と子ども2人がいろんなスーパーのチラシを見比べて、「どこのきゅうりが一番安いか」なんて探していました。子どもが「こっちのほうが10円安い!」と言うと、「おまえ、でかした!」と言って、兄が子どもを連れてママチャリで出かけていくんです。

金丸:それは微笑ましい。

前田:めちゃくちゃ幸せな光景だなと。僕は自分の判断で今の生き方を選んでいるので、後悔はないし、すごく幸せです。でも向上することとか勝ち上がることだけが、その人にとっての最大の幸せじゃない可能性がある。

金丸:それをわかっているかどうかは、重要なポイントですね。

前田:ビジネスで勝ったとしても、その人にとって本当に幸せかどうかはわかりません。仕事はそこそこにして、なるべく多くの時間を家族や彼女と過ごすことに割いたほうが幸せな人もいるでしょう。だから自分がどう生きたいのか、その指針となる羅針盤をもたないといけない。その羅針盤をもてないことが、一番の不幸だと思います。

金丸:ではどうしたら、その羅針盤をもてるのでしょうか?

前田:自己分析なのかもしれないし、自己分析で見つからなければ、ほかの人と話しながら、「この人の価値観は自分に近いな」とか「遠いな」と相対化するのもいいと思います。

金丸:私は若者にはもっと起業してほしいと考えていますが、やりたい気持ちがまったくなければ、その人にとって本当の幸せだとは言えませんからね。

前田:最近、本当に有難いことに、「前田さんみたいになりたいです」とか「いつか起業したいです」と言っていただけることが増えたのですが、「本当にそれでいいのでしょうか?」と聞いたりもします。刺激的であるぶん、犠牲にしていることも多くて。まず寝れないし(笑)。

金丸:それは、やることが多すぎてですか?

前田 それもありますし、横になっていてもずっと考えてしまって。「これをやりたい!」と思いつくと、ぱっと起きてしまうんです。自分が手綱を握ってるから、自分がやろうと決めたらすぐにやれるという幸せな状況の裏返しなんですけど。

金丸:でも、寝たほうがいいですよ。私の取り柄は、どんな厳しい状況でも寝られて、食べられるということです。自分で自分を大切にしなければ戦い続けられないし、いつか強敵が現れたときに、寝ていない自分、食べていない自分だと勝てないかもしれない。だから、備えるために寝るんです。

前田:おっしゃる通りですね。僕も30代になって、働き方が変わりました。20代のときの「とにかく物量作戦だ」という考え方を改めているところです。

金丸:でも、きつい生活でも頑張れるのは、目指しているものがあるからこそ、ですよね。得意なことや好きなことに打ち込んでいれば、大したストレスにはなりません。

前田:そうですね。今の生活は働いている時間こそ長いけど、本当にストレスがなくて、超絶に楽しいです。

金丸:これからは十分な睡眠を取って、さらに多くの人たちに勇気を与え続けてください(笑)。今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。

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