SPECIAL TALK Vol.56

~制約がバネに、逆境が燃料になるということを、自分の人生を通じて証明したい。~

人生のすべてが無駄にならず、結実した「SHOWROOM」

金丸:事業計画を見せたとき、南場さんは何とおっしゃったんですか?

前田:「やめたほうがいい。そのままやっても失敗する可能性が高いから、まずうちで経営の何たるかを学んでからにしたらどう?」と。

金丸:バッサリですね。でも、DeNAに入社してすぐSHOWROOMを作ったそうじゃないですか。

前田:DeNAには2013年5月に入社したんですが、実は別のサービスを入社1ヵ月で作って、1ヵ月で潰しまして。

金丸:すごいスピード感(笑)。

前田:その失敗のあと、7月からSHOWROOMを作り始め11月にリリースしました。2015年の8月にはソニー・ミュージックの出資を受け、会社分割して、独立という流れです。

金丸:現在、SHOWROOMはどのような状況ですか?

前田:アイドルやタレントを中心にしたライブ動画の配信に加えて、VR領域の強化に取り組んでいるところで、バーチャルキャラクターでの配信をできるようにしました。それに僕らの強みは、たとえばミュージックフェスをやれば日本の一流アーティストが参加してくれるし、アイドルフェスをやればAKB48や欅坂46が参加してくれることです。つまり、コンテンツに明確な優位性がある。今後は、純粋なプラットホームとしてのみではなく、もっと積極的にコンテンツも生み出していこうと思っています。任天堂はマリオという圧倒的な人気のキャラクターがいて、マリオが出てくるコンテンツがあるからこそ、ハードが売れる。数年のうちに「SHOWROOMもそれと同じなんですよ」と投資家の皆様に説明できるような状況を目指します。

金丸:SHOWROOMは、ライブ配信している人に対して、ギフトを送ることができます。これはきっと前田さんの弾き語り体験から来ていますよね。

前田:その通りです。子どもの頃の体験があったからこそ生まれたサービスです。やるべくしてやっている感じがして、「運命は怖いな」とも思います。今、オフィスには、亡くなった従兄からもらったギターを飾っています。そのギターがなかったら自分はこのビジネスをやっていない。まさに原点。見るだけでエネルギーが湧いてきます。

金丸:経営者としては、投資銀行で金融の世界を学んだことも大きな武器なのではないでしょうか?

前田:そうですね。投資家を相手に仕事をしていたので、どんなプレゼンが刺さるのかも理解しています。

金丸:ファイナンスやアカウンティングに明るくないせいで苦労している経営者を、これまで数多く見てきましたが、SHOWROOMは投資銀行の経験も生きています。前田さんの人生のすべてが無駄にならずに、全部詰め込まれたビジネスモデルですね。

“自分の外のゴール”はやる気を持続させる

金丸:ところで、先ほど「頑張るモチベーションが2つある」とおっしゃいました。ひとつは制約下にある人を勇気づけたい。もうひとつは何でしょう?

前田:「兄を楽にしてあげたい」という恩返しの気持ちです。最初のうちは自分を育ててくれた兄に対する承認欲求だったと思いますが、でも今は認める認めないという次元の話ではなくて、兄に楽をさせてあげたいとか、贅沢をさせてあげたい、という気持ちが強いです。

金丸:なるほど。前田さんのモチベーションは、完全に外部要因なんですね。起業家の多くは、基本的には「自分のため」という自家発電型だと思うのですが、「自分以外の誰かのため」「何かのため」というゴール設定のほうが、持続性が強いように感じます。ベンチャー経営者としてもてはやされた人が消えていくのも、「贅沢したい」というような自分自身の欲求をゴールにし、ある域に達すると満足してしまうからです。あるいは贅沢な生活ができなくても、「ここまでやったんだからいいや」と、自分でハードルを下げてしまったり。

前田:ゴールが自分の外にあると、勝手にハードルを下げられないし、燃料が尽きないからずっと頑張れますよね。

金丸:オリンピックの金メダリストも、実は片親の人が多いんです。たとえば母子家庭に育って「お母さんを楽にしてあげたい」と思ったら、それは永遠のミッションになる。とはいえ、ずっと努力し続けていると、やはり息切れしそうになることもあるんじゃないですか?

前田:でも努力って、習慣化してしまえば努力と感じることすらなくなるんです。たとえば僕のメモは、記録すること自体が目的ではなく、聞いた話からファクトを抽出し、抽象化して、ほかに転用できないかを考えるための思考法です。メモを取ることを通じて、自分の知的生産性を上げていると言ってもいい。最初のうちは、一連の流れを定着させるのに苦労しましたが、ずっと続けていれば、それが当たり前になってきます。

金丸:前田さんの2冊目の著書『メモの魔力』を読んで、「自分と同じことをやってるな」と思ったんですよ。

前田:えっ、そうなんですか?

金丸:私は、実際にメモは取らないまでも、それを頭のなかでやるんです。誰かの話を聞いて何か面白い材料を見つけたら、「これってどういうトレンドだろう?」とマクロ分析して自分の意見をもつ。次に「このパターンって、ほかのことにも使えるはずだよな」と考えてみる。

前田:本当にまったく同じですね(笑)。光栄です。

金丸:小さな努力でも日々の習慣にして積み重ねていけば、その差は広がっていきます。それを長年続けていると、ほかの人が追いつけないくらいの大きな差が生まれます。だから何もやってもいない人に、「それが何になる」なんて言われたくないですよね(笑)。

前田:本当に。やらないとわからない世界はありますからね。

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