
~制約がバネに、逆境が燃料になるということを、自分の人生を通じて証明したい。~
2020年のニューリーダーたちに告ぐ
早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行に就職。アメリカに渡り、機関投資家を相手に日本の銘柄を売る。
帰国後DeNAに入社し、立ち上げたサービスを独立させ起業。エンタメ界に革命を巻き起こし、一躍脚光を浴びる。30代になったばかりの前田裕二氏の経歴は一見華麗だが、その裏には過酷な幼少期があった。
くじけて立ち直れなくなりそうなどん底から、担任の先生の一言で救われた前田氏は、自分と同じような境遇にある子どもたちに勇気を与えようと走り続ける。
人生においても、ビジネスにおいても「愛」が重要だと語る前田氏が、波乱万丈の人生と、ビジネス哲学、そして努力し続けるための方法について語る。
金丸:今日はライブ動画ストリーミングサービスを運営するSHOWROOM株式会社の前田裕二社長をお招きしました。お忙しいなかありがとうございます。
前田:こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。
金丸:本日のお店は、表参道に昨年オープンした『レヴォル』です。シェフはフランスの三ツ星料理店やニューヨークの『アクアヴィット』本店で修業を積んできたそうで、伝統のフレンチにノルディックを掛け合わせた料理が堪能できます。
前田:ありがとうございます。料理もとても楽しみにしています。
金丸:前田さんとこうしてお会いするのは2回目ですね。
前田:最初にお会いしたとき、初対面という気がまったくしなくて、どこかでお話ししたことがあるんじゃないかとずっと不思議な気持ちだったんです。
金丸:前田さんもそうだったんですか!? 私も同じ気持ちでした。それに前田さんが話しているのを聞いていると、質問の仕方や質問への答え方が私に似ているなと感じました。年齢も風貌もまったく違いますが、ひょっとすると似た者同士なのかなと思います。
前田:そんな、恐縮です。
金丸:前田さんはメモ魔として有名ですが、今日のような対談でもメモを取りながらでないと落ち着かないのでは?
前田:最近は自分が落ち着かないということ以上に、一緒にいる方から「メモしないんですか?」と質問される機会が多くて。
金丸:それだけ知れ渡っているんですね。
前田:僕がメモを取っていないと、「メモしないということは、前田さんにとって今の話は興味がないということですか?」と。当然そんなことはないのですが(笑)。
金丸:私はメモを強要したりしませんので、リラックスしてお話しください(笑)。
両親の早逝から、教師に褒められて立ち直る
金丸:早速ですが、前田さんはご両親を早くに亡くされていますね。
前田:父は僕が3歳のときに亡くなり、小学2年生の夏、8歳で母を亡くしました。
金丸:8歳というと、子どもと母親の距離が一番近い時期です。とてもつらかったでしょう。
前田:当時は、生きるモチベーションを完全に失ってしまい、絶望していました。小学5年生くらいまでは学校に行かないことも多かったし、行ったら行ったで喧嘩したりで。
金丸:そこから何がきっかけで立ち直ったのですか?
前田:はっきりと覚えているのですが、先生に褒めてもらえたことです。授業で担任の先生が言ったことをまとめて色付けし、シールまで貼っていたら、そのノートを見た先生がすごく褒めてくれました。それが本当に嬉しくて。
金丸:ひょっとしてメモ魔になったのも、それがきっかけですか?
前田:確かに、そうかもしれません。
金丸:それだけ強烈な体験だったんですね。
前田:今から思えば、先生は僕のいいところを何とか見つけて、みんなに伝えることで学校になじませようとしてくれていたんだと思います。その先生をはじめ、小中高と、先生には本当に恵まれました。
金丸:前回お会いしたとき、前田さんは「周りのみんなのいいところを見つけたい」とおっしゃっていました。ほかの人だと、きれい事を言っているように感じるかもしれませんが、前田さんの場合、経験に基づいているから説得力が違います。
前田:僕は人生においても、事業においても、「愛」がとにかく大事だと信じています。先生がいいところを見つけて褒めてくれたことで、僕の人生はガラッと変わりましたから。
金丸:路上でギターの弾き語りをしてお金を稼いでいたというのも、その時期ですよね。
前田:そうですね。母が亡くなったあと、親戚の家に引き取ってもらったのですが、うまく馴染めず、決して余裕がある状態ではありませんでした。ただ、幸運だったのは、その家に11歳年上の気が合う従兄がいたこと。何かと僕のことを気にかけてくれて、ギターをくれたり、音楽を教えてくれたりしました。弾き語りをしていたのは、6年生の初めから中学2年生くらいまでです。
金丸:その年齢で、自分で何かをして対価を得る経験をしている人は、なかなかいませんよ。しかも、エンターテインメントで。
前田:子どもの頃にその経験ができたのは、本当にラッキーでしたね。お客さんの反応を目の当たりにし、「人に喜んでもらう。そうするとお金が生まれるんだな」と気づきました。
金丸:それが前田さんにとっての商売の原点になった。
前田:まさに。喜びの度合いが大きいと、それに見合った対価がもらえる。だから「もっとこうしたほうが喜んでもらえるんじゃないかな」と、トライアンドエラーの日々でした。
金丸:そう聞くと、子どもの頃から起業家体質だったんですね。