モテる男 Vol.3

「俺…本当は一途だよ」深夜のバーで、モテる男が囁いた言葉。その真意とは

考えてみれば私と勇輝に共通の話題などない。1週間前にバーベキューで初めて会って、ほんの少し言葉を交わしただけの関係なのだから。

「玲奈ってさ、あいつめちゃくちゃ運動音痴なの知ってた?」
「え、そうなの!?何でもできるイメージなのに意外」

玲奈の話題を最初に持ち出したのも私。学生時代の仲間が特別な関係であることもわかる。私にとって花苗や裕子がそうだから。だけど…。

「ゴルフとかも余裕でできそうに見えるだろ?でも最初めちゃくちゃ下手でさぁ。まあ皆に隠れてコソ練して、なんとかついていける位にはなってたけど」

しかし勇輝が玲奈のことを語るのを聞いているうち、私の中に小さな違和感が生まれた。

うまく言えないが、行間に漂っている気がするのだ。何か…特別な感情が。


「摩季ちゃんは、いま彼氏いるの?」

一杯目のカクテルが終わる頃、ようやく核心に触れられた。

「いない」と即答し、そしてすぐに後悔する。…何も正直に答える必要はなかった。適当に濁しておけばよかったのに。

−相原くんは?

そう尋ねようとして一瞬、迷う。その刹那、彼が再び玲奈の話題を持ち出した。

「そういや玲奈って、いま誰と付き合ってんのかな。知ってる?」
「え…?」

どうして、そんなこと聞くの。

喉元に何かが詰まったように、声を出せなくなった。

私が気にしすぎているのだろうか。これはただの世間話?それとも…。

「うーん、どう…だったかな。玲奈、自分のことあんまり話さないから。でも前に、すごく年上の彼氏がいるって聞いた気がする」

ざわつく心を懸命に隠し、何でもない素ぶりで答えた。心にスーッと、冷たい風が吹いた気はした。

私の言葉に、勇輝は「へぇ」と小さく呟く。そしてそのまま、何も言わずにブランデーを飲んだ。その静かな横顔に私は益々孤独を感じてしまう。


「そろそろ行こっか」

その後、他愛のないやり取りをいくつか交わし、勇輝は立ち上がった。

なんだ。本当に一杯だけのつもりだったのか。

−…私、バカみたい。

勇輝は何も悪くない。彼は最初から「一杯だけ」と言って私を誘ったのだから。

突然の誘いに浮かれ、動揺し、ひとりで大騒ぎしたのは私。

そうは言っても、実はその後もあるんじゃないか…なんて勝手に期待して、もし家に誘われても絶対に行かないんだから!なんて誓いながらやってきた私、本当にバカみたい。

彼の後に続いて店を出る。

「ありがとね、摩季ちゃん。今度はぜひゆっくり。…あ、家どこだっけ?送ってく?」

勇輝は「送る」と言ってくれたけれど、私は断った。彼がそれを望んでいる気がしたからだ。

「大丈夫。相原くんはタクシー?私は駅まで歩くから、気にせず乗っちゃって」

そう言って、私は自らタクシーを停めてあげた。

−何やってんだろ、私…。

こういうとき、下手な気を回さず甘えられる女が心底羨ましい。相手の都合などお構いなしに送ってもらえば、違う展開になる可能性も0とは言えないのに。

しかし27年積み重ねた性格は、そう簡単に変えられない。勇輝を乗せたタクシーのテールランプを眺めながら、私は「はぁぁぁ」と大きなため息をついた。

六本木の駅まで多少あるが、歩こう。歩きたい気分だ。

…今夜ここにきたのは、果たして正解だったのだろうか。

自問自答しながら、私は早くも失恋したような気持ちで帰路に着いた。

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