SPECIAL TALK Vol.55

~「目標を立てて、必死に努力する」。苦境を突破する術をスポーツが教えてくれた~

慣れ親しんだスポーツが苦難を乗り越える力に

金丸:退院後は順調に回復したのですか? さすがにすぐにスポーツ復帰というわけにはいかないと思いますが。

谷:スポーツは、まったく考えられませんでしたね。ちょっと歩いたら疲れるし、電車が急に止まったら簡単によろけてしまう。義足をつけたからといって、すぐに普通に歩けるようにはならないんです。

金丸:これまでバリバリ体を動かしてきた谷さんだからこそ、戸惑いも大きかったでしょう。

谷:10ヵ月に及ぶ入院生活が終わって、やっと試練を乗り越えたと思っていたのに、普通の生活に戻ってみると、そこからが本当の試練だったんです。過去の自分と比べてしまったり、周りと比べてしまったりして、精神的にすごく落ち込みました。大学に戻ったときは3年生だったので、周りのみんなは就職活動中で、追いつかなきゃと思いながらも、慣れない義足と頭にウィッグをつけてという状態では、なかなか前向きになることもできませんでした。

金丸:そんな状況を、どうやって乗り越えたのですか?

谷:いつまでも後ろ向きではいられないと思ったとき、これまでスポーツで培ってきたことを思い出したんです。それは目標を立てて、その目標に向かって一生懸命努力するということ。こんな状況だからこそ、なんでもいいからスポーツをやってみようと思い、まずは水泳に挑戦しました。

金丸:水泳ですか。以前やっていたとはいえ、義足だとハードルが高そうですが。

谷:実は逆なんです。水の中では義足を外すので、うまく歩けなくても関係ありません。やってみると、ちゃんと泳ぐことができて嬉しくなりました。それで、本当はできるはずなのに、自分で勝手に諦めようとしていたことに気づきました。

金丸:まだまだ可能性は広げられるんだと。

谷:それからはうまく歩く練習ではなく、筋トレをして走り込む、というアグレッシブなリハビリを始めました(笑)。走れるようになると筋力もついてくるので、歩き方もまともになってきて。

金丸:走ってリハビリなんて、初めて聞きました(笑)。長年慣れ親しんできたスポーツが、谷さんに挑戦することの大切さを思い出させ、苦難を乗り越える力を与えてくれたんですね。

谷:最初に義足で走ったとき、「ああ、風を切るってこういう感覚だった」と懐かしさを感じました。そして、また走れるということが嬉しくてたまりませんでした。喜びを感じながら走っているうちに、やっぱり大会に出たくなりまして(笑)。

金丸:さすが、アスリート魂ですね。

谷:小さな大会でもいいから出たいと思い、100メートル走と、あと1種目を何にしようか考えていたとき、「そういえば、子どもの頃、体力測定で走り幅跳びが得意だったな」と思い出しました。

金丸:じゃあ、それまで走り幅跳びの競技経験はなかったんですか?

谷:ありません。でもビギナーズラックにも恵まれて、記録もトントンと伸びました。そのうちパラリンピックの選考会に挑戦することになり、大学卒業を間近に控えた4年生の3月に、なんとか出場権を得ることができました。

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