2019.04.20
SPECIAL TALK Vol.55大学生活を満喫中にまさかのがん宣告
金丸:さて、その後、念願の早稲田大学に入学されます。
谷:商学部に入学したんですが、そんなに勉強はせず(笑)。体育会の応援部に入って、チアリーディングを始めました。
金丸:意外ですね。これまではずっと個人競技だったのに、水泳でも陸上でもなく?
谷:実は小学6年生からずっと、「大学生になったらチアリーディングをするぞ」と決めていたんです。
金丸:そんな話、今まで出てこなかったですよ(笑)。早稲田進学といい、チアリーディングといい、谷さんは密かに思っていることを着々と実行していくタイプなんですね。
谷:チアリーディングは、全国大会もあるれっきとした競技です。テレビで大会の様子を初めて見たときの衝撃は、今でも忘れません。アクロバティックな動きを笑顔でやりきる。そして、みんなが仲良さそう。すごくキラキラして見えて、大学生になったら絶対にやりたいと思い続けていたんです。そしてやるからには、体育会系に入りたい。上下関係は厳しいし、決まりごとも多いけど、きっとかけがえのない仲間ができるはずだと思っていました。実際、同期の10人とは今でも仲がいいです。
金丸:ご病気をされたのは、大学生のときですよね。
谷:はい。大学2年生の秋です。右足首の骨肉腫でした。
金丸:何がきっかけでわかったのですか?
谷:最初は「足首が痛いな」と感じたことです。チアリーディングはひとりでも欠けると成り立たないスポーツなので、大きなステージが終わるのを待って、町の小さな整形外科に行きました。レントゲンを撮ったら、先生から「骨が溶けている」と言われて。
金丸:ショッキングな表現ですね……。
谷:わけがわからないまま紹介された大学病院に行き、そこでは時間外にもかかわらず先生方が何人も集まってきて、深刻な表情で話し合って。「これは捻挫でも疲労骨折でもありません。もっと専門の病院に行くとをおすすめします」と言われ、今度は築地にある国立がん研究センターの中央病院に行きました。
金丸:急にそんなことを言われて、取り乱したりすることはなかったんですか?
谷:不思議と強くいられましたね。当時はまだ19歳だったので、私ひとりでは宣告を聞けず、母がすぐ病院に飛んできてくれました。母と一緒に説明を受けたのですが、それまで「5年生存率」という言葉さえ聞いたこともないのに、先生が「治療がうまく進んだら何%、うまくいかなかったら何%、転移が進んだら何%」と。それを聞いているうちに、「そうか、私は5年後に生きていないかもしれないのか」と思いながら、自分のこととして信じられないという感じで……。
金丸:そうでしょう。突然すぎて受け入れられない。
谷:そして最後の最後に、先生が「これらがすべてうまくいっても、右の膝下は残せないでしょう」と。つまり切断しないといけない。ちょうどその頃、3年生から所属するゼミが決まって、これからはチアリーディングだけじゃなく、しっかり将来の夢を作りつつ勉強するぞと思っていた矢先だったので、すごくショックでした。
「足か命か」。究極の選択を迫られる
谷:当時、膝の人工関節はありましたが、足首の人工関節は存在しませんでした。10年待てばできるかもしれないけど、それを待っていたら死んでしまう。「だから最善の方法は、義足になることです。今は義足の技術も進歩していて、普通の生活を送ることができます」と説明されました。
金丸:これまでスポーツに打ち込んできたのに、究極の選択を迫られてしまったのですね。
谷:ショックで言葉が出ませんでしたね。スポーツを趣味に生きてきたのに、この先どうやって生きていけばいいんだろうと……。そんな私の気持ちを母が代弁してくれました。「この子は小さい頃からずっとスポーツをしてきて、命と同じくらい大事な足なんです」と。それに対して先生は「頑張れば、またスポーツもできます」と力強く答えてくださいました。だから何もわからないけど、とりあえず先生の言うことを信じてみようと決めたんです。そしてすぐ入院し、治療を始めました。
金丸:そこで打ちひしがれるのではなく、スポーツができる可能性を信じようというのがすごいですね。
谷:でも入院生活はそんなに甘いものじゃなく、逃げ出したいくらいに苦しくて、きつかったです。あれほどの思いは、いまだに練習でも経験したことがありません。
金丸:やはり抗がん剤の副作用ですか?
谷:はい。それが一番苦しかったです。小児がんの一種だったので、抗がん剤の大量投与が必要で、入院してすぐに点滴が始まり、その瞬間から気持ち悪いという状態が続きました。本当に効いているのか自分ではわからないし、1ヵ月たったら髪もごっそり抜けてしまって。
金丸:精神的にも相当苦しかったでしょう。
谷:ゴールの見えない真っ暗なトンネルにいるような気持ちでしたね。「学校に戻って、普通の生活を送るんだ」ということだけを目標にしていたんですが、そのかすかな光も見失いそうになるほどでした。でも、いい出会いもあったんです。私が入院していたのは、整形外科と脳外科のフロアで、ほかのフロアより患者の年齢が比較的若く、同室の30代の方が私のことを妹のように気にかけてくださいました。その方は私と違って、取り除けない種類のがんを患っていて、私以上に苦しいはずなのに、「絶対治そうね」って、いつも明るく励ましてくれました。
金丸:それは救われますね。
谷:「みんな本当に生きたいし、治したいと思っている。自分だけが逃げちゃだめだ」と思いましたね。幸いなことに抗がん剤がちゃんと効いて、足首の痛みが消えました。すると今度は「本当に切らなきゃいけないのか」という葛藤が出てきて。
金丸:なるほど。痛くないのに切断する必要があるのかと。
谷:だから手術の10日前、先生と直接話す機会をもらいました。「気持ちはわかるけど、今手術をしなかったら、あと1年半しか生きられません」とおっしゃるので、「先生のお子さんが同じ状況でも、切断を選択しますか?」と尋ねると、「そうするよ。命が大切だから」と。この言葉を聞いて、「これが最善の方法なんだ」と納得しました。なので手術の日も、穏やかな気持ちで迎えることができました。
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