ブラックタワー Vol.2

「ドアの隙間から、誰かが覗いてる…」。優雅なタワマン暮らしを謳歌する妻を、戦慄させた出来事とは

ーまるでお城みたいに、高くて真っ白な塔。私もあそこの住人の、一人になれたなら…。

ずっと遠くから眺めていた、憧れのタワーマンション。柏原奈月・32歳は、ついに念願叶ってそこに住むこととなった。

空に手が届きそうなマイホームで、夫・宏太と二人、幸せな生活を築くはずだったのに。

美しく白い塔の中には、外からは決してわからない複雑な人間関係と、彼らの真っ黒な感情が渦巻いていたー。

憧れのタワマン暮らしがスタートし、幸せの絶頂にいた奈月。ところがある人物との衝撃の再会をきっかけに、平穏な毎日が少しずつ脅かされていく。


―まさか同じマンションに住んでたなんて、あり得ない…。

あれから半日経っているというのに、奈月の頭の中は、エレベーターで再会した男、永田の事で埋め尽くされていた。

永田との出会いは、今から7年ほど前のこと。仕事で知り合った年上の経営者に口説かれた奈月は、瞬く間に燃えるような恋に落ちた。

まだ若かった奈月にとって、紳士なふるまいと、ギラギラとした色気のギャップを巧みに使いこなす永田は、あまりにも魅力的だったのだ。

恋は盲目とはよく言ったもので、まさか永田が既婚者である可能性なんて、考えたことすらなかった。バツイチ独身だと言う彼の言葉を信じていたし、いつでもきていいよと、合鍵だって貰っていたのだから。

ある日突然、永田の妻だと名乗る女がマンションに乗り込んで来たときすら、ドッキリかと思ったほどだ。だけど、慌てふためく永田の情けない姿を見て、現実を悟った。

その後、既婚者であることを知らなかった奈月は罰せられることこそなかったが、知らず知らずのうちに自分が不倫をしていたという事実は、大きくプライドを傷つけた。

ー宏ちゃんにだけは、絶対に知られたくない。

仕事帰りに立ち寄ったスーパーで夫の好きなメニューを作ろうとウロウロしてみるものの、なかなか決められない。それどころか、どんな野菜を見ても、永田のために昔作ったことのある料理がモヤモヤと脳裏に浮かんでくるのだ。

昔、妻と関係していた相手が、今同じマンションの最上階に住んでいるだなんて宏太が知れば、当然気分を悪くするに決まっている。更に、その関係が不倫だったということがバレてしまうようなことがあれば、失望するに決まってる。

あれから、住む場所を変え、職場も変えた。永田との関係を完全に絶ってから数年、やっと宏太と巡り会い、憧れの生活を手に入れたばかりだというのに。

ー絶対に、隠し通さなくちゃ…。

次々と蘇ってくる過去の男との記憶を必死で追い払いながら、奈月は買い物カゴに次々と食材を放り込んだ。

【ブラックタワー】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo