実家暮らしの恋 Vol.2

「今夜も食事だけ…?」交際中の彼女を決して家に誘わない29歳男が隠し持っていた、ある秘密

東京で1人暮らしを始める際、家賃の高さに目を疑う人も多いのではないだろうか?

特に23区の人気エリアでは、狭い1Kでも10万円を超えることはザラ。まだ収入の低い20代の若者たちの中には、“実家暮らし”を選択する者も少なくない。

家賃がかからない分可処分所得が多くなり、その分自分の好きなことにお金を使えることは、大きなメリットだ。

大手総合商社で働く一ノ瀬遥(28)もそのうちの一人。

仕事は完璧、また収入の大半をファッションや美容に投資できる彼女はいつも隙なく美しく、皆の憧れの的。最近は新しい彼氏もでき、全てが順風満帆…のはずだったが!?

遥と圭介は、完璧な相手と付き合い出したことに喜び、早くもお互い密かに週末同棲を夢見ていたが…


付き合いたての彼氏に感じる違和感


―首元のV字がきれいな白いニットか、透け感のあるワンピース、どっちにしよう…。清楚な感じにしたいな。

待ち合わせまであと2時間以上もあるというのに、姿見の前を何度も行き来する。今日は圭介と、映画を観る約束をしていた。

付き合ってまだ日が浅いとは言え、大人なんだし、そろそろ「家に来ない?」と言われてもおかしくない頃だ。そんなことを考えていたら、あっという間に待ち合わせの時間が近づいてくる。

結局白いニットに小さなダイヤのネックレスを合わせ、ジョーマローンの香水を纏う。今日は念のため、見えない所のケアも抜かりなくしている。

―今夜家に誘われたら…。緊張するな…。

玄関まですり寄って来る愛犬・ミミを撫でながら、気合いを入れて9cmヒールに足を滑りこませた。



六本木ヒルズで落ちあい映画を観たあとは、圭介がディナーを予約をしてくれていた。昨年オープンしたばかりのスペイン料理の新店『BIKiNi SIS』だ。

「このピンチョス、すごく綺麗!予約してくれてありがとう。」

「気になっていたお店だったから、一緒に来れて良かったよ。」

優しい言葉に、遥はにっこりと微笑み返す。すると次の瞬間、圭介が嬉しそうに聞いてきた。

「遥は、最近料理してる?…遥の作ったものも、食べてみたいな。」

その言葉に一瞬で凍り付く。

圭介は、当然のように遥が一人暮らしだと思っているようだった。たしかに初めて会ったとき、都内在住で料理もよくすると話したので、そう思ったのも無理はないのかもしれない。

突然の問いかけに、遥は恐る恐る答えた。

「作ってあげたいけど…うちには両親と犬がいるから。弟はもう実家を出たけど」

するとその一言に、圭介の手が止まった。

「…何?どうかした?」

努めて優しく言ったつもりが、自分の顔にも不安の色が表われたのを自覚する。

「…いや、ううん。遥、実家暮らしなんだ。家族の話もそういえば聞いてなかったから、てっきり、一人暮らしなんだと思い込んでた。」

「そうだよね、初めて話すもんね。奥沢の実家暮らしで、“ミミ”っていう犬を飼っているの。」

気まずい空気を少しでも変えたくて、遥は意識的に無邪気そうな笑顔をつくり、スマホを見せた。

「そうなんだ、可愛いね。」

圭介はにこやかにピンチョスを口に運んでいたが、先ほどと比べるとやはり少しテンションが落ちているように見えた。

食事のあと「じゃあ近くまで送らせて」と、圭介は遥の手を握る。

その力のない握り方に、彼の落胆の気持ちを感じ取った遥は、言葉にならない違和感を覚えたのだった。

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