違和感を覚えながらも、美希はその夜、彼の家で一晩を過ごした。
「さらに驚いたのは、シーツまでシワひとつなく糊がかけられていたこと。クリーニングに出しているそうです」
しかし生活感のない部屋も、統一されたバスタオルも、クリーニングされたシーツも、何も悪いことではない。むしろ世間的には理想の男部屋で暮らすハイスペ男に違いない。
素直に「素敵!」と思うことができないのは、自分が屈折しているからなのかも…。美希はそんな風に思い、彼のライフスタイルを尊重しようと考えた。
東大卒のエリート外銀男というのは、日常生活もこのくらいストイックでなければ務まらないのだろうと。
「それに、並々ならぬ拘りも悪いところばかりじゃないんです。例えば彼、すごい料理上手で。休みの日にプロ顔負けの手料理を振舞ってくれたりもしました」
美希は典明との関係を続けていこうと、精一杯の歩み寄りを見せた。しかしそんな努力も虚しく、典明はあっさり美希を見限ってきたのだ。
音信不通になった理由
「彼が私に冷めた理由なら想像がつきます」
美希はそう言って再び前髪をかきあげると、嘲笑うような表情を浮かべた。
「一度だけ、彼が私の家に来たことがあったんです。その時のことは、もはや黒歴史ですね。とにかく気まずかった」
なんでも典明は、美希の家にある日用品に事細かく苦言を呈してきたらしい。
こんなくたびれたバスタオル早く捨てなよ、そんな安物のリップクリーム身体に悪いよ(彼はオーガニック物を愛用していた)、キッチンマットって実は不衛生だよ、等々。
「うるせー!と思いましたよ、正直。でも私、意外に言い返したりできなくて。それに彼、別に間違ったことを言ってるわけじゃないから…」
聡明な女性である美希は、そんな風に自分を納得させたという。
しかしこの日を境に、急に典明と音信不通になった。
「おそらく彼は、私を自分と同じ人種だと思い込んでいたんでしょうね。その…私ってどうやら完璧主義に見られがちだから。でも実際は想像と違った」
自分の価値観と相容れないものはただ排除する。美希との関係の終わらせ方も、まさに彼のライフスタイルそのものだった。
「数日間は私から何度か連絡したけど…なんとなく理由もわかったし、追いかけてもムダだと思ってやめちゃいました」
それから典明とは一度も連絡を取っていないが、共通の友人から聞いた話では未だ結婚する気配はないという。
「彼とうまくいく女性っているのかしら…。同じように潔癖の人なら合うのかな。もしくは何も主張せず、すべてを彼に合わせてあげられる人とか。でもそれってモラハラ夫ですよね」
一方、今年32歳になった美希には現在、別の彼氏がいる。
「典明ほどのハイスペ男じゃないけど…同い年で、IT系のスタートアップをしてる人。一緒に家でぐうたらできて、めちゃくちゃ楽ですね。今の彼となら、結婚してもいいかなって思ってます」
今となっては、典明が美希をあっさり見限ってくれたことに感謝すべきかもしれない。
▶NEXT:2月5日 火曜更新予定
男友達としては最高でも、結婚には向かない35歳の商社マン
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この記事へのコメント
見た目は良いのに、汚部屋住みで幻滅した、とか。
やたらこだわりが強い男って面倒臭いよ。
変な話、潔癖の人にとって、裸足でスリッパはかれるより、肌合わせる方がハードル高くないのかしら??潔癖とは無縁な私の素朴な疑問w