黒塗りの扉 Vol.2

「あの男と何かある…」異変を察知して妻の監視を始める夫。急速に広がる猜疑心と、歪んだ衝動

東京のアッパー層を知り尽くし、その秘密を握る男がいる。

その男とは…大企業の重役でも、財界の重鎮でもなく、彼らの一番近くにいる『お抱え運転手』である。

時に日本を動かす密談さえ行われる「黒塗りの高級車」は、ただの「移動手段」ではない。それゆえ、上流階級のパーティではいつも、こんな会話が交わされる。

「いい運転手を知らないか?」

一見、自らの意思などなく雇い主に望まれるまま、ただ黙々と目的地へ向かっているように見える運転手が。

もしも…雇い主とその家族の運命を動かし、人生を狂わせるために近づいているのだとしたら?

これは、上流階級の光と闇を知り尽くし支配する、得体の知れない運転手の物語。

ようこそ…黒塗りの扉の、その奥の…闇の世界へ。


自らの手腕で成り上がった男・環利一(たまき・としかず)。環が、ある噂を聞いて新たに雇った運転手・鈴木明(すずき・あきら)の初出勤日。鈴木が環の自宅へ行くと環の妻・聡美が出迎えるが、鈴木を見た途端に彼女は倒れてしまうのだった。


「…聡美ちゃん?」

朝帰りで自宅に戻った環利一は、誰もいないリビングで妻の名を呼んだ。

―運転手は来てないのか?

午前10時30分。

体が丈夫ではない妻が、この時間に起きていないことはよくあるが、運転手との約束の時間からはもう30分過ぎている。

人の気配を探して、妻のベッドルームに向かう。中は静かだが、少しだけドアが開いていた。

ノックをしようとした手が、室内に妻以外の人の気配を感じて止まる。

ベッドの横に跪くように、眼鏡をかけたスーツの男がいる。そして、その男の手が、ベッドに横たわる妻の手を握っているのが見えた。

ーベッドルームに男がいて、その男が聡美の手を握っている。......

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