SPECIAL TALK Vol.52

~日本とバングラデシュ、一方的な支援ではなく、双方の課題解決を~

インターン中に貧困に直面。根本である教育に切り込む

三輪:そうして旅を続けるうちに、「誰かのために働いている」と言える生き方は、すごく素敵だなと感じるようになりました。振り返ってみると、父は大好きな森を守るために林業関係の仕事をしているし、母も苦しんでいる患者さんのために看護師という職業を選んでいる。

金丸:ご両親は、稼ぎがいいとか堅実だからと選んだのではなく、社会に貢献しようというパブリックマインドがあったのですね。そう考えると、三輪さんがこのように育ったのも道理です。

三輪:じゃあ、僕は途上国の人たちのために働こうと思い、JICAの就職試験を受けました。無事に内定をもらったあとは、選ばなかった道を経験しておこうと、民間企業でインターンをすることにしたんです。

金丸:営利、非営利の両方の世界を知っていると強いですからね。

三輪:せっかくなら、途上国と日本をつなげてビジネスをしている企業がいいと思い、選んだのが「マザーハウス」という会社です。社長の山口絵理子さんは「バングラデシュで作ったバッグを銀座三越に置く」という目標を掲げて活動されていました。

金丸:それはなかなか難しそうだ。

三輪:僕も最初は無理だろうと思いましたが、でも後に達成しているんです。当時は年商10億円程度で、まだまだこれからという状態でしたが、ゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして働いていた山崎大祐さんが、山口さんを応援するために、前職を退職され、副社長として組織改革を進めていた時期でした。

金丸:山崎さんは年収何千万という世界を捨てて、ベンチャーに飛び込まれたんですね。

三輪:マザーハウスでは9ヵ月間働いたのですが、途上国に産業を作って、ビジネスにしていくという二人の生き方を間近で見て、しびれましたね。大学卒業後に進む道は違うけれども、いつかは僕もそんな勝負をしてみたいと思うようになりました。

金丸:それを体感できたというのは、素晴らしいインターンでしたね。

三輪:そんなとき、バングラデシュで、e-Educationのもう一人の創業者である税所篤快と出会いました。彼は当時、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス先生のところで働いていて、出会ったときに運命を感じたんです。

金丸:運命ですか? いったいどのような?

三輪:彼は早稲田大学の後輩で、しかも東進ハイスクール出身でした。マザーハウスの山口さんと山崎さんも慶應義塾大学の竹中平蔵ゼミの先輩、後輩です。彼らと似た間柄で、しかも相当な熱量を持っている税所となら、すごいことができるかもしれないと。

金丸:では、教育で勝負しようとしたのはなぜですか? バングラデシュには、ほかにもいろいろと必要とされている事業があるはずですが。

三輪:そうですね。二人の共通認識は、貧困問題の根源は教育だということでした。だから貧困のサイクルを断ち切りたいなら、時間はかかるかもしれないけれど、やっぱり教育から攻めるべきだろうと。僕が初めて訪問した2010年当時は、とくに中学、高校の先生が4万人足りないという状況だったので。

金丸:それは深刻です。

三輪:小学生だったら、田舎でもお父さん、お母さんが代わりに教えられますが、高校生になると、地元の大人では教えられない。つまり大学進学を諦めざるを得ないんです。だけど子どもたちは、家に電気がないなか、街頭の下で蚊に刺されながら深夜まで熱心に勉強していました。僕はたまたま両親が協力的で、塾に行けるお金もあって、大学に進学できたけれど、この子たちは、僕よりよっぽど情熱があるのに大学に行けない。それを目の当たりにしたときに悔しくて。税所と一緒に、先生がいないのなら、最高の先生を映像にして届けよう、ここに革命を起こそうと心に決めました。

金丸:こうして、e-Educationがスタートしたのですね。

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