2019.01.21
SPECIAL TALK Vol.52途上国と日本をつなぎ、日本の子どもにも勇気を
三輪:e-Educationでは、各国にいる有名な先生の授業を録画・編集して教材を作り、子どもたちに提供しています。この8年間で制作した教材は約3,000本、生徒数は2万人を超えました。ただ活動するなかで、日本のような先進国にも、途上国とは違った貢献ができるのではないかと考えるようになりまして。
金丸:それはどういうことでしょうか?
三輪:バングラデシュ人の仲間を、島根県にある過疎地の学校に連れて行ったことがあります。そこは小学校は2学年が同じクラス、中学校は全学年で1クラスという複式学級で、教科ごとに先生がいないので、授業はすべてパソコンで個人学習。先生はチューターのように、生徒が詰まったときに手助けをしていました。
金丸:授業を見たバングラデシュの方の反応は、いかがでしたか?
三輪:「これが未来の教育なんだね」と大喜びでしたよ。彼にはあえて「過疎でこうせざるを得ない」という事情を伏せていたんですが、過疎が進んでいることで、逆に生徒たちが自分の進捗に合わせて学べるという非常にいい環境が整っている。彼の喜ぶ姿を見て、僕らが目指しているこの学習スタイルは間違っていないと確信しました。
金丸:私も本来教育というのは、個人の理解度や適性に合わせて提供すべきものだと思っています。島根の過疎の学校ではそれができているのに、人口の多い地域では、旧態依然とした授業が行われている。逆転現象が起きていますよね。
三輪:この話にはさらに続きがあり、バングラデシュ人の彼が生徒たちに「君たちは東京大学に合格できると思う?」と質問しました。すると、全員が「絶対無理です」と。
金丸:まあ、そう答えるでしょうね。
三輪:でも、それに対して彼は「バングラデシュにいる僕の生徒たちは、君たちよりはるかに貧しい環境で勉強しているけど、東大のような難関大学に100人くらい受かったよ」と。それを聞いて、高校生たちはみんなびっくりして。
金丸:今、私も驚きましたよ(笑)。
三輪:その後、島根からスカイプで、バングラデシュの貧しい地域で勉強している子たちとつないで交流しました。すると、その高校の翌年の大学進学率が、グッと上がったらしいんです。
金丸:自分たちも負けていられないと、子どもたちの意識が変わったんですね。
三輪:そうですね。途上国で活動しているからこそ、日本の子どもたちに足りないものを届けられることがわかりました。
金丸:教育にとどまらず、いろいろな分野でできることがありそうです。
三輪:まさにそのとおりで、実は地域の課題解決のために、バングラデシュの優秀な若者を日本に連れてこようというプロジェクトを始めました。
金丸:青年海外協力隊の逆バージョンですね。
三輪:バングラデシュのITエンジニアを、日本の地方都市のIT企業に派遣するという活動に、JICAと共同で取り組んでいます。単なるエンジニアとしてだけでなく、地元の高校生に英語を教えたり、その地域で暮らす外国人たちのコミュニティを活性化させたり、地域を盛り上げる担い手として活躍してもらえるのではないかと。
金丸:大きな可能性を感じます。NPOと企業、そして自治体が一緒になって課題に取り組むという活動は、アメリカでは当たり前ですが、日本ではまだまだ事例が少ないですから。
三輪:たしかに今はあまりないですが、少子高齢化が進む日本では、自治体と企業だけではリーチできない課題を、NPOをハブにして解決することが、今後はどんどん増えていくのではないかと思っています。
人と違うことを親が認めれば、子どもは力を発揮できる
金丸:最後に、子どもの教育について、三輪さんのお考えを聞かせてください。安定を求めて大企業に入ることを願うお母様は、世の中にたくさんいますが、これに対してどのように思いますか?
三輪:僕の母は高校の意見に反対してまで、僕にやりたいことをやらせてくれました。それがとてもうれしかった。だから、子どものやりたいことを応援するというのは、たとえそれがほかの人と違っていても、否定せずに認めることだと思うんです。
金丸:それに人と違うことは、決して悪いことじゃありませんよね。
三輪:でも、それをほめてくれる親は本当に少ない。たとえば、クラスのみんなが右手を挙げているのに、ひとりだけ左手を挙げていたら、ほとんどの親が「なんであなたも右手を挙げないの」と怒ります。でもそこで怒るのではなく、「よくぞ左手を挙げた」とほめてほしいんです。
金丸:もし正解が「左」だったら、その瞬間、一人勝ちですよ(笑)。
三輪:われわれの仲間のなかには、ひきこもりだった人やいじめにあった人もいます。でも彼らは、総じて親に認められたという経験があるんです。「家にずっといてもいいじゃない」「いじめられたという経験が、将来きっと財産になるよ」と両親に言ってもらって。
金丸:ひきこもっていたり、いじめられていたりすると、その原因を本人に求めがちですが、それでは何も解決しませんよね。
三輪:そうですね。人と違っていたり、一見人より劣っているように見えたりしても、きちんと受け止めて肯定してあげることが重要なんです。そこには先進国も途上国も関係ありません。途上国では、特に女性が大学進学を目指すと、両親はものすごく反対します。だから僕たちは、一軒一軒回って親御さんを説得するんです。「バングラデシュの首相も野党の総裁も女性です。この国のリーダーと同じように、娘さんにも可能性があるんですよ」と。こう丁寧に説明するとご両親は納得し、娘さんを応援しようと考え方を変えてくれます。
金丸:理解して、応援してくれる人がいることが、子どもの可能性をどんどん引き出していく。三輪さんはご両親にしてもらったことを、途上国の子どもたち、そして日本の子どもたちに還元しようとしています。この輪が世界中に広まっていくことを願っています。今日は本当にありがとうございました。
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