2019.01.07
最後の恋 Vol.1人はいつだって、恋できる。
だが振り返ったときにふと思うのだ。
あのときの身を焦がすような激しい感情を味わうことは、もうないのかもしれない。あれが「最後の恋」だったのかもしれない、と。
それは人生最高の恋だったかもしれないし、思い出したくもない最低な恋だったかもしれない。
あなたは「最後の恋」を、すでに経験しているだろうか…?
この連載では、東京に住む男女の「最後の恋」を、東京カレンダーで小説を描くライター陣が1話読み切りでお送りする―。
今回は、外資系投資銀行に勤める男性・悠(35)の話。
―あれ、由梨子さん…?
12月も終盤に差し掛かった、ある週末。
広尾の日赤通りを車で走っていると、真っ赤なスカートを履いている女性に目がいった。
髪は栗色のくせ毛で色素が薄く、足早で駅に向かう彼女の吐く息は白い。その姿にすっかり目を奪われていたら、青信号に気づかず後ろからブッとクラクションを鳴らされ慌ててアクセルを踏んだ。
◆
あれはもう8年前、僕が27歳の頃のこと。
3年ほど付き合っていた彼女、由梨子さんに振られた。それはもう、鮮やかすぎるほどに呆気なく。
振られた翌日。
僕はぼんやりした頭で、当時住んでいた近くの、木の葉が枯れきって寒々しい目黒川沿いを歩いていた。
右手にはスタバで買ったカプチーノのトールサイズ。今日は夜中にマイナス1度まで冷え込むかもしれないと天気予報でやっていたのを思い出す。
寒さで頭が働かないのか、失恋のショックなのか、どこまでもまっすぐ続くように見える目黒川沿いをひたすら歩き、気づけば池尻大橋まで来ていた。
フラれた理由が「他に好きな人ができた」とか「僕のことが嫌いになった」なら、百歩譲って納得する。でも彼女はこれしか言わなかった。
「自分のことをもっとちゃんとしたくて」
僕はその言葉にひどく混乱する。
ちゃんとしたくて、ってなんだ?そんな理由で、3年付き合った男を振るか?本当に何て女だ。あまりにも唐突で身勝手過ぎる。納得できなかった僕は何度も何度も聞いた。
「他に好きな男ができたのか」
「僕のことが嫌いになったのか」
しかし彼女はひたすらに首を横に振るだけ。
だから僕は全然割りきれなかった。本当に、全然。
そんなことをぼんやりと考えながら、家に帰ろうと目黒川沿いを折り返す。いつもは気持ちよく歩くこの道も、今日は下水の匂いがツンと鼻についた。
翌日、寒さにやられたのか、熱を出した僕は会社を休んだ。
外資系投資銀行に勤める僕は、それなりに毎日忙しい。上司に電話すると、この忙しい時期に体調不良で休むなんてありえない、と直接的には言わなかったものの、言葉の端々にそれが滲んでいた。
でも僕はもう仕事なんてどうでもよくなっていて、とにかくもう一度彼女と会う方法を考えた。
【最後の恋】の記事一覧
2019.12.29
Vol.13
2019年ヒット小説総集編:「最後の恋」
2019.03.18
Vol.12
既婚男の嘘を鵜呑みにし、騙され続けた女。3年かけて気づいた“生涯最後の恋”と出会う方法
2019.03.17
Vol.11
身を焦がすような恋に溺れた夜。あなたにとっての人生最後の恋とは?「最後の恋」全話総集編
2019.03.11
Vol.10
「俺…離婚した」真夜中の報告に心揺れる人妻。淋しさから近づく男女が、最後の恋に堕ちた夜
2019.03.04
Vol.9
結婚10年目、冷めきった夫婦関係に爆発寸前の妻。ジムで出会ったバツイチ男の誘惑で呼び起こされた恋心
2019.02.25
Vol.8
婚約中、12年ぶりの同窓会に行った男。36歳になった初恋相手が明かす、卒業アルバムに仕掛けられた秘密
2019.02.18
Vol.7
愛欲に溺れる人気絶頂バツイチ俳優を、15年間支えた挙句に捨てられた女。彼女の知らぬ男同士の密約とは
2019.02.11
Vol.6
「彼との子供が欲しい...」1年だけと期限を決めた恋。全てを失っても欲しかった、愛した男の遺伝子
2019.02.04
Vol.5
「1番好きな人とは、結婚できなかった」世間体に惑わされ自分の気持ちを無視した女の、悲しい習慣
2019.01.28
Vol.4
「普通レベル」のくせに…。あの子が、美女を渡り歩いたモテ男から“最後の女”に選ばれたワケ
おすすめ記事
2024.03.30
アオハルなんて甘すぎる
「港区に住むなら、絶対知っておくべきコトは…」27歳女が触れてしまった、西麻布の闇
- 関西
2018.05.28
大阪LOVERS
東京女に浮上した、まさかの二股疑惑。“大阪追放”へのカウントダウンのはじまり、はじまり!?
2018.10.06
黒塗りの扉
「2人きりでお会いしたい」。男からの意味深な誘いに、疑惑を抱えながらも揺れ動く女心
2017.03.29
結婚できない女
結婚できない女:20時開始の食事会に、ほろ酔いで登場。誘いの絶えないモテ女の残念な理由
2022.09.15
キューティーワイフの逆襲
離婚後も嫌がらせを続ける元夫。見下されていた妻が仕掛けた、静かな復讐
2020.11.07
私、やっぱり結婚がしたい
私、やっぱり結婚がしたい:しぶっていた女が2回目のデートを思わず快諾した、男の誘い文句
2019.02.27
浪費の女王
振られて悲しいはずなのに、心の隅ではホッとしてる…。複雑な思いを抱えた女の事情とは
2019.06.10
東京ハイエンド妻
東京ハイエンド妻:中流サラリーマン家庭出身のコンプレックス。年収3,000万以上に固執した女の執念
2019.04.15
12星座の女たち
12星座の女たち:「4月15日」に何かが起こる。“都合のいい関係”に苦しむ女を救った、意外な存在
2020.07.19
東京バディ
「酔ったはずみで、彼女を・・・?」結婚前の女が、他の男の家で朝をむかえたワケ
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.04.23
今日、私たちはあの街で
3回目のデートで、終電を逃した28歳女。翌朝、男が激しく後悔したワケ
2024.04.23
Editor's Choice~fashion~
最大10連休のGWのお出かけに!カラフルなミニボストンバッグが、万能な理由とは?
2024.04.25
Editor's Choice~beauty & wellness~
すれ違ったときに香るぐらいが好印象!大人のニオイ対策には、上質なランドリーアイテムを取り入れて
2024.04.26
大人の週末ToDoリスト
GWは東京でヨーロッパ旅行気分! 『イタリア展 2024』や『フランス展 2024』などイベント3選
2024.04.28
Editor's Choice~gourmet~
最高に気持ちいい空間で、ラグジュアリーな外飲み体験!今から楽しめるビアガーデン6選
この記事へのコメント