ようこそ、ルミ子の部屋へ Vol.2

「なぜこんな女に…?」夫を奪った女の正体に愕然とする妻。その裏に隠された巧妙な策略とは

仕事も恋愛も、自己実現も、自由に叶えられる時代。
それでも私たちは悩みの中にいる。

「この人でよかったんだろうか」
「ここは本当に自分のいるべき場所なのか」

東京・銀座の片隅に、そんな迷える東京男女たちが
夜な夜な訪れるバーがある。

ある日、バーを訪れたのは、記入済みの離婚届けを持って結婚記念日に夫が失踪した女、野上紗綾。留美子は急いで離婚届不受理の手続きをさせ「知らない間に離婚」は避けることができたが–


夫の帰りをひたすら待つ、理想の妻


♪テッテレテッテ、テッテッテッテッテ♪

デフォルトの着信音「オープニング」の間抜けな音色で、紗綾は目を覚ました。

–祐也じゃ、ない…

液晶に表示されているのは03から始まる知らない番号だった。ならば無視することにしよう。

ソファからゆっくり体を起こすと、首と腰が痛んだ。

夫がいつ戻ってきても気づくようリビングのソファで眠るようにしている。うっすら寝化粧をし、セクシーな部屋着を身につけて。

夫の祐也が失踪して、今日で1週間になる。

彼の実家。目ぼしい友人。それとなく理由をつけて連絡してみたものの、彼がいそうな気配はない。彼の勤務先…に問い合わせるのはどうしても躊躇われた。

もし、いつも通り出社していたら。夫婦関係が破綻していると自ら白状しに行くようなものだ。

–あと1週間、待ってみよう

紗綾は飲み物を取りにキッチンに立った。一度も使っていない古伊万里の蕎麦猪口が目に入る。1つ1万円近くしたが、食器にこだわる祐也のために揃えたものだ。

その隣には、バーミキュラのライスポット。帰国子女の祐也は、長い海外生活の反動か朝は必ずご飯派なのだ。保温機能がないので毎朝早起きして炊くようにしていた。

祐也。祐也。祐也。

この部屋は、どこを見ても「彼」で溢れている。

♪テッテレテッテ、テッテッテッテッテ♪

切ない回想は、再び間抜けな着信音にかき消された。さっきと同じ03の番号だ。

–もしかして、警察?事件とか、事故とか…

思いつく限りの最悪の事態を想像しながら、紗綾はおそるおそるスマホに耳を近づけた。

「もしもし紗綾さん?留美子です。ねえ、つかぬことを聞くけど、あなたのご主人って身長175cmくらいで顎のところにホクロある?あとドイツ語しゃべれる?」

それは、確かに最悪の事態だった。
まったく紗綾の想像していなかった形の–

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