「康太とは、新卒時代からの知り合いでした」
出会いは、10年以上前に遡る。
新卒時代、まだ学生気分が抜けていなかった明美は毎晩のように食事会に繰り出していたそうだが、そんな数多の食事会の中で出会ったのが康太だった。
しかし、康太から積極的に誘われるものの、明美は全く食指が動かなかったという。
「当時はとにかく年上の人が好きだったんです。だって年上の方が経験も豊富だし、経済力だって同世代の男の子とは全く比較にならないでしょう?なので同じ年の康太なんて、論外でした」
美人で顔も広かった明美は、20代前半で年上の男性達と遊び、交際することで東京の贅沢を知ってしまった。
それが、明美の婚期を逃した原因でもあった。
「とびっきり優しくて、良い思いをさせてくれる年上の人たちとばかりデートしてました。でもそういう人たちは大概既婚者で、食事に行ったり楽しい時間を過ごす相手としては最高だけれども、結婚には至らない方々ばかりだったんです」
そんな楽しい日々を過ごしているうちに、気がつけば28歳になっていた。
周囲は続々と結婚しており、一人だけその結婚ブームに乗り遅れていたことは明らかだった。だが、時すでに遅し。
気づいた時には、一緒に食事会へ行く女友達を見つけるのさえ難しくなっていたそうだ。
以前のように食事会が毎晩ある訳でもなく、昔の戦友たちはすっかり落ち着いて結婚生活を楽しんでいるため、女同士で新たな出会いを探しに行く機会もそうそうない。
「そんな時に、たまたま連絡をくれたのが康太でした」
以前だったら見向きもしなかった康太だが、久しぶりに再会した時にはすっかり大人になり、頼り甲斐も増していた。
そして何より、康太はとにかく結婚願望が強かった。
「“次に交際する人は結婚する人だと考えている”、と康太が言った時、私の中で何かが弾けました。決断するなら今しかない、この波に乗らずにいつ乗るんだ、と」
今から新しい人と出会って恋をして、交際して、婚約して結婚・・・。そんなプロセスは長すぎて、30歳に間に合わないと焦っていたタイミングでの再会だった。
「康太はずいぶん前からの知り合いだし、出会いのプロセスが省略できるし、気も使わなくていい。それまで考えてた理想の結婚相手とは違ってましたけど、まあ仕方ないかなって」
結婚相手と考えれば、結局はこれくらいの、地に足が着いた相手が良いのだろう。
そう自分自身に言い聞かせ、納得させ、康太と交際し、結婚に至った。
この記事へのコメント
なんだかんだで、幸せなんだから、勝ち組?ですね。
妥協して相手を選んだわけではなくて、自分にとって妥当な人を選んだということです。