2019.01.08
経験やセンスを問われることの一つに、「お店選び」がある。
人生の節目に「負けられない戦い」があるように、社会人になれば男女問わず「絶対に外せないレストラン選び」に遭遇するもの。
転職1年目の紗弓にとって、その「絶対に外せないレストラン選び」は、新年早々訪れることになる。
この難局、どう乗り越える…?
「……」
12月末の寒さよりも冷たい視線が、紗弓の提出した企画書に落とされる。上司の片岡は、たっぷり5分間の沈黙の後にようやく口を開いた。
「…まあ、いいだろう」
やはり、賛辞の言葉はない。紗弓は小さく「ありがとうございます」と答えると、緊張のあまり金縛りのように強張っていた体をどうにか動かし、自身のデスクへと戻った。
メーカーで営業をしていた紗弓が、新進のWeb系広告代理店の広報部に転職して9ヶ月。仕事そのものには随分慣れてきたものの、冷酷なほどに無愛想な片岡の厳しさには未だ慣れることができないでいた。
自席でぐったりと脱力する紗弓に、隣のデスクに座っている、30歳で同い年の同僚・理子が声を掛ける。
「片岡さん、相変わらず怖すぎ…。42歳とは思えないほどの迫力だよね。新卒入社の私でも、笑った顔ってまだ見たことないよ。でも企画は無事通ったみたいでよかったね!これで一山超えたって感じ?」
紗弓はうなだれていた頭を持ち上げると、深刻な表情で左右に振った。
「いやいやいや、まだ一番大きな仕事が残ってますから…」
その必死の形相に、理子は紗弓の言わんとすることを察したようだった。
「あぁ…。この部署の人たち、かなりグルメだから神経使うよね。しかも入社早々あんな事件を目の当たりにしちゃったらね…」
改めて口に出されたことで、背負っていたプレッシャーがリアリティを増す。
理子の憐れみの視線を受けながら、紗弓は再びがっくりとデスクに突っ伏した。
―絶対に、失敗はできない…!
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