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続・二子玉川の妻たちは Vol.1

続・二子玉川の妻たちは:栄華を極めた元カリスマ・サロネーゼ。ブーム終焉からの意外な復活劇


マリは元々、銀座の高級マンションにて東京で人気ナンバーワンのポーセラーツサロンLuxeを主宰していた。そして結婚6年目、待望の第一子を授かり、子育てのしやすい二子玉川へと移り住む。

空前のお稽古ブームであった当時、二子玉川には有象無象のサロネーゼがひしめいていたが、名実ともにサロネーゼ界のトップに君臨するマリは、タワマン最上階から高みの見物。

しかしその中でたった一人だけ、マリの存在を脅かす女がいたのである。

永井由美

由美のことを思い出すと、マリは懐かしさとともに、もはや細胞レベルで染みついた戦闘本能が疼き、今でもソワソワとした気持ちになる。

彼女が転写シート(ポーセラーツの材料となるシールのようなもの)のデザイン模倣をしたことが原因でふたりは火花を散らし、結果としてマリがサロンをクローズするきっかけにもなった女だ。

とはいえ別に、マリが由美に負けたというわけではない。

可愛い盛りの子どもとの時間を確保したいという気持ち。それから…サロネーゼが持て囃される時代の終焉が近いことを、マリはいち早く察知していたのだ。

そして実際、マリの不在によりトップの座を勝ち取った由美も、お稽古ブームが下火になるとともにポーセラーツサロンBrilliantを縮小したと風の噂で聞いた。

そして由美は現在、まったく別のキャリアを築いているらしい。…彼女もつくづく、“ただの主婦”でいられない女である。

マリのことに話を戻そう。

サロンをクローズした後、マリは幼稚園に通い始めた我が子に作るデコレーション弁当に夢中となり、なんと“デコ弁アーティスト”へと華麗なる変貌を遂げた。

もともと凝り性な上に手先も器用、何事も突き詰めずにはいられない性格が奏功し「真似したい!愛情たっぷりデコレーション弁当」という本を出版するまでに知名度を上げたのだが、悲しいかな、ブームは常に移り変わるもの。

“デコ弁アーティスト”としてイベントやトークショーに登壇するなど彼女が華やかな扱いを受けたのは、ほんの一瞬の出来事であった。

四ツ谷で開業医を営む夫と、可愛いひとり娘。夫は何不自由ない暮らしを与えてくれるばかりか、マリを心から愛し尊重してくれる人格者でもある。

子育てをしながら仕事ができているのも、夫がほぼ住み込みのシッターを手配してくれたおかげなのだ。

さらには“デコ弁アーティスト”としての活動に翳りが見えはじめたころ、元気をなくしたマリに夫は「忙しいマリに、神様が休息を与えてくれたんだよ」などと声をかけてくれもした。

しかし常に憧れられ、羨まれる人生を当然のごとく享受してきたマリは、「何者でもない自分」を受け入れることができない。

何か、自分にできることはないだろうか。

欲を言えば30代も半ばとなった今、「サロネーゼ」などという軽い響きのものではなく、もう少し社会的信用を得られるような肩書きが欲しい。

都内の有名女子校から慶應文学部に進学。卒業後は外資系航空会社に就職して華々しい20代を謳歌した末、開業医の妻となった。

そんなマリの容姿、育ちの良さ、学歴・経歴、上質なネットワーク、財力…それらすべてを活かせるような面白いビジネスはないものか。

そうやってマリはずっと、次なる金脈を貪欲に、したたかに探していたのだ。

この記事へのコメント

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No Name
二子妻をリアルタイムで読んでいた身としては、あの人は今!にかなり興味津々です。みんな、どうなってるんだろう~。
2018/08/06 05:3699+
No Name
マリさん久しぶり!
ビジネスの才覚がある人は違いますね。
最近新しい連載が増えて毎朝楽しみ。
2018/08/06 05:3481
No Name
わ、これは次回も楽しみ(笑)
2018/08/06 05:3359
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続・二子玉川の妻たちは

あなたは覚えているだろうか。

有り余る承認欲求のせいで、ただの主婦ではいられない女たちの戦いを。

「サロネーゼ」と呼ばれる、自宅で優雅に“サロン”を開く妻たち。空前の習い事ブームにより脚光を浴びた彼女たちだが、それも数年前までの話。

東京では早くも旬を過ぎ、サロネーゼの存在感は急速に薄まっている。

しかし妻たちは、タダでは転ばない。

彼女たちは今日も、“何者か”になることを求めてもがき続けているのである。

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