女友だちからの密告
廉は、私の大学の同級生だ。
学部も専攻もクラスも一緒、出席番号まで前後で、オマケに目をつけていたゴルフサークルの新歓コンパに参加すると、隣の席に彼がいた。
お世辞ならばイケメンと言えなくもない無難な顔立ちに、コミュニケーション能力の高さと、根っからの面倒見の良さ。
クラスでもサークルでも、廉は何かとリーダー的ポジションを任されることが多く、言わば典型的な学園の人気者タイプの男だ。
一方の私は、プライベートの活動に忙しく、キャンパスライフなんて二の次。でも、同級生になんてまるで興味のない小生意気な私にとっても、廉だけはなぜだか心を許せる不思議な存在だった。
「おっ、意外とイイ感じに書けてるじゃん。ほんと、里奈は要領いいよなぁ」
エントリーシートを隅々までチェックし、廉は満足気に頷く。それは、私がたった今出席した授業中に仕上げたものだ。
「同じ会社に受かるといいよな。これも何かの縁だしさ、一緒に頑張ろうぜ」
そう言って廉が屈託のない笑顔を見せたとき、私は不意に気が緩み、涙が溢れそうになった。
「どうした?就活が不安なのは誰だって一緒だよ。でも里奈は外ヅラいいからさ、面接まで行けば勝ちだろ!」
お門違いな励ましに必死になる彼を見ていると、泣きたいような笑いたいような情けない気分になる。
―ねぇ里奈...。貴志さん、やっぱり既婚者だったよ。里奈がいつも泊まってた十番の部屋は、彼の“遊び用”の別宅だって。本宅は代官山で、子どもも二人いるらしい。外銀の男って本当に恐いね。
今朝かかってきた、女友だちからの密告の電話。
「おかしい」と思ったことは、何度もあった。
でも、見る必要のないモノにわざわざ目を向けるのは時間の無駄と思っていたし、忙しい日々の中で煩わしい思いをするのも御免だった。
この学生生活は、充実させたもの勝ち。“年上の彼氏“という存在に意義はあっても、たった一人の男にコミットして、他の数多の誘いを無下にするなんて勿体ない。
広く浅く、花の蜜を吸い上げるように、楽しいことだけに集中していればいいー。
そう信じていたはずなのに、どうして私はこんなにも傷ついているのだろうか。
「なぁ、お互い協力すればさ、絶対大丈夫だって。一緒に内定目指そうぜ」
廉の健全な優しさは、胸の痛みを癒すどころか、傷口に塩を塗られたようにピリピリと染みた。
「...うん」
流行りのレストランに連れて行ってくれるワケでもない。高価なプレゼントをくれるワケでもない。もちろん、恋愛感情なんてモノもない。
なのに、本能的に「廉と離れたくない」と感じるのが不思議だった。
今思えば、ふわふわと煌びやかで現実味の薄い日々を送る中で、彼の存在は、私の唯一の安定した足場だったのかも知れない。
でもこの時は、まさかこの同い年の優男が、あれほど長く私の人生に深く関わり続けるなんて、思いもしなかったのだ。
▶NEXT:明日6月27日 水曜更新予定
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この記事へのコメント
代々木上原とか表参道、フォックスアンブレラみたいな雰囲気。
気がつかなかった笑