―あの頃の二人を、君はまだ覚えてる...?
誰もが羨む生活、裕福な恋人。不満なんて何もない。
でもー。
幸せに生きてるはずなのに、私の心の奥には、青春時代を共に過ごした同級生・廉が常に眠っていた。
人ごみに流され、都会に染まりながらも、力強く、そして少し不器用に人生を歩む美貌の女・里奈。
運命の悪戯が、二人の男女の人生を交差させる。これは、“女サイド”を描いたストーリー。
「リナの肌ってさ、本当に滑らかで綺麗だよな。ほら、この吸いついてくる感じ、堪らないよ...」
恋人の貴志はそう言って、言葉どおり私の腰のあたりに愛おしそうに唇を這わせた。
「やだぁ、くすぐったい。やめてよー」
彼は私を抱くとき、肌やら表情やら、脚の形の良さなんかをやたらと褒めてくれる。
当初は貴志のやや過剰な饒舌を気恥ずかしく思ってもいたが、こんな風に裸で戯れ合うのは、もう慣れっこになってしまった。
それどころか、外資系投資銀行に勤めるハンサムな年上の恋人に賞賛されるほど、自分の価値がいかに高いものかを実感することできる。
貴志の甘い言葉や執拗な愛撫は、身体の快感だけでなく、“私は彼のようなハイクラスの男に乞われる女だ”という自己陶酔の愉しさも教えてくれたのだ。
「リナは、俺のもの」
そんな束縛めいた囁きも、耳に心地良く響いた。
まだ20歳を少し過ぎたばかりの私は、背伸びをした生意気娘であっても、ベッド上の男の言葉を真に受けるくらいの年相応のピュアさは持ち合わせていたのだ。
だから、仕事で多忙な貴志にチラホラと垣間見える違和感も、家政婦が週に数回掃除に訪れるという彼の部屋の妙な無機質さにも、特に気に留めることはなかった。
この記事へのコメント
代々木上原とか表参道、フォックスアンブレラみたいな雰囲気。
気がつかなかった笑