パーフェクト・カップル Vol.9

自分でも自覚している異常なコンプレックス。「理想の妻」を演じる女が抱える孤独のワケ

誰もがインターネットやSNSで監視され、さらされてしまうこの時代。

特に有名人たちは、憧れの眼差しで注目される代わりに、些細な失敗でバッシングされ、その立場をほんの一瞬で失うこともある。

世間から「パーフェクトカップル」と呼ばれる隼人と怜子は、一挙一動が話題になり「理想の夫婦」ランキングの常連として幸せに暮らしていた。だが結婚6年目、人気アナウンサーの夫・隼人が女の子と週刊誌に撮られてしまう。その代償として2週間の謹慎処分を受けた隼人に、大手芸能事務所の敏腕マネージャーの香川が引き抜きの声をかける。隼人はその誘いを断り独自の戦いを選ぶが…。

「世間の目」に囚われ、「理想の夫婦」を演じ続ける「偽りのパーフェクトカップル」の行く末とは?


「堀河くん、その上にこれ着てみて。」

大量のスーツやシャツに囲まれた衣装室。今日は、新番組のポスター撮りの日だ。

衣装の最終確認のため、スタイリストに言われるがまま着せ替え人形になっていた僕は、シャツのカフスを止め終わると、手渡された深緑のコットンのジャケットを羽織って見せた。

「うん、初夏っぽくていい。どう思う?」

鏡の中の僕を見つめながら同意を求める彼女は、業界では大御所と呼ばれるスタイリスト。

僕が「皆さんの意見に従いますよ」と笑って返すと、周囲の女性スタッフやアシスタント達から、素敵ですぅ、という声が上がった。

その声に、よし、じゃあ堀河くんはこれに決まり、と満足そうな顔で頷くと、僕の襟や袖丈を確認しつつ、彼女は大御所らしい重みのあるトーンで言った。

「堀河くんは、ほんと完璧に体型管理してくれるから安心なのよね。それに比べて…。ササタクくん!」

その声に、隣でフィッティングしていた男が、はいっ、と大げさに反応する。

その様子に笑いが起こり、スタイリストが溜息をつきながら言った。

「2週間前に比べて急にマッチョになるアナウンサーなんて聞いたことないわ。持ってきた衣装がどれもパツパツ、なんて前代未聞よ。事前のサイズ確認の意味が…。」

「すみません…。野球選手のトレーニングに密着取材してたら、僕もつい鍛えたくなっちゃって…。」

笹崎が、本当に申し訳なさそうに言うと、まだまだ文句を言い足りない様子だったスタイリストの彼女も、ほだされた表情になり、ちゃんと反省しなさいよ、と言いつつ場が和んだ。

僕も愛想笑いで周囲に合わせながら、鏡越しに、ネクタイを締めてもらっている笹崎の表情を盗み見る。

―計算なのか、天然なのか。

後輩の、その本性を探ろうとしていた矢先、僕たちは2人で番組を持つことになってしまったのだった。

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