港区男子が社会人になって成し遂げた、下克上とは?
「杏奈ちゃんもCAなの?俺、どこかで見たことある気がするんだけど...」
「実は、昔ちょっとタレントみたいなことをしていて...その時のことかなぁ?今は表参道で外資系ブランドのプレスをしています。」
男性陣一同が、ゴクリと唾を飲み込む。
そうだ、彼女をどこかで見た気がしたのは、テレビか雑誌で見ていたからだ。素人にしては可愛過ぎると思ったが、やはり理由があるのだ。
そして僕は、ここから完全にプッシュモードに入る。
「杏奈ちゃんは、どこに住んでいるの?」
「今は中目黒です。サトシさんは?」
「僕、恵比寿だよ。近いじゃん!今度飲もうよ!」
恵比寿は交通の便が良いし、渋谷にも六本木にもどこからでも近いので誘いやすい。
女性たちも恵比寿に来るのはハードルが低いようで、「飲みにおいでよ!」と誘うとかなりの確率で顔を出してくれる。
「去年三宿から移転した『セルサルサーレ』って行ったことある?イタリアンなんだけど、前菜の一口パスタとか凝っててかなり美味しいんだ。今度連れていくよ。」
恵比寿には、小洒落たイタリアンや和食屋がたくさんある。こうやって誘えば、大概の女性は少なからず興味を示してくれるのだ。
嬉しい〜と言いながら喜ぶ杏奈を見て、心の中でニンマリとした。
その後も裕太との抜群のコンビネーションで場を盛り上げ、杏奈はそれを見てクスクスと笑っていた。
僕は根っから社交的な性格であり、こうやって皆を盛り上げる姿を女の子たちは「かっこいい」と思ってくれるようだ。
そうやって28年間生きてきた、この時までは―。
◆
杏奈と出会った、その週末。
買い物がてらに行った東京ミッドタウンで、僕は信じられない光景を目の当たりにした。
『オランジェ』前あたりで、一際目を引く女の子が歩いていた。僕はすぐに杏奈だと気がつき、大きな声で「あんな〜」と呼ぼうとしたが、その背後に、一人の男性がいることに気がついた。
杏奈は笑顔で一生懸命話しかけているものの、その男性はどこか仏頂面で、しかも早足で歩いている。
—なんだ、アイツ……?イヤな感じだな。
そう思いながらよく観察していると、杏奈がその男に対して向けている笑顔と、僕に対して向けていた笑顔は全く別物だと気づく。
—杏奈には、彼氏がいたのか...
せめて杏奈にぶっきらぼうな態度を取っている男の顔を見ておこうと少し歩いたところで、思わず息を呑んだ。
その男は、学生時代の友人・龍太だったのだ。
「りゅ、龍太!?」
「あれ・・?サトシ?」
振り返った龍太は、見違えるほど垢抜けていた。
昔龍太とは同じ学部だったが、僕と裕太が所属していた派手な広告サークルに門前払いされた、イモっぽい男だった。それでも一生懸命僕たちのグループに喰らいつこうとしていた、そのくらいのイメージしかない。
しかし目の前にいる龍太は、明らかに自信に満ち溢れていた。イモっぽさは払しょくされ、先ほど買ったと思われるジョンロブの紙袋を抱えている。僕の、憧れのブランドだった。
「あれ〜?サトシさん?こんなところで会うなんて。リュウ君と知り合いなの?」
「え?杏奈、サトシと知り合い?学生時代の仲間だよ。」
“杏奈”と呼び捨てにする龍太にツッコミを入れたくなるし、“リュウ君”という呼び名も気になる。何よりも龍太の発した“仲間”という言葉も少し気になった。
「二人は、付き合っているの?」
あくまでも冷静に言ったつもりだが、僕の声は少し上擦った。
「杏奈と?違う違う!付き合って“は”いないよ。」
龍太の言葉に悲しげな表情を浮かべる杏奈を見て、僕はものすごく悲しくてやるせない気持ちに包まれる。
一体、龍太は何なんだ?どうしてこんなにも変わったのだろうか。
「今度、飲みにでも行こうよ。せっかくだし。サトシはどこで働いているの?俺、この近くで働いているから。」
そう言って龍太が告げた会社名は、誰もが知っている外資系投資銀行だった。
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エビダンvs港区男子の戦いがいざ始まる
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東カレさんは外銀、商社、広告などが大好物