大学で上京。必死に勉強し、得た自由。
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「あおい、内定おめでとう!」
渋谷にある九州料理の店、『たもいやんせ』で、親友の優が乾杯をしてくれた。
埼玉県出身の優が、宮崎県出身のあおいの為にと、宮崎の郷土料理の店を予約してくれたのだ。
日南風のチキン南蛮が食べられるなんて…と、あおいは親友の優しさと有難さを噛み締めつつ、都農ワインのハイボールを喉に流し込む。
「お、美味しいよ…。本当に、本当にありがとう。」
チキン南蛮を夢中で頬張るあおいを見て、優がふふっと笑った。
資格取得のため猛勉強に明け暮れた大学時代を過ごした自分たちが、こうして外でお酒を飲むなんて珍しい。
早稲田大学在学中、あおいは公認会計士試験の勉強に人生のほとんどを費やしていた。
まずは簿記の資格取得から始め、1年生のうちに3級・2級の試験に軽くパスしたものの、1級の壁は厚く2年生の夏休み前にようやく合格することができた。
それからも、周囲が要領良く大学の単位を取りサークル活動を楽しんでいる様子を横目に、公認会計士試験の短答式に挑んだ。モチベーションを保つのが難しく、何度泣きながら故郷の母に電話をかけたかわからない。
彼氏もろくに作らず、食事会にも行かず、ひたすら髪を振り乱して勉強した結果、ついに公認会計士の論文式試験に合格した時の喜びが鮮明に蘇る。
「あ、そうだ!お母さんに写メしてあげないと!優ちゃんとチキン南蛮食べちょるよ、と。」
あおいは、今まで感じたことのない解放感に浸っていた。
在学中に難関試験にパスした実力が認められ、半ば売り手市場の状態で大手の監査法人から内定を得ることもできた。あとは地道に実務補習を受け、無事に公認会計士になれれば…。
「ね。これでやっと、少しは遊べるよね。明日、銀座に買い物に行ってみようよ。」
自身も超難関の税理士試験を突破した優は、とりあえず思いきり遊ぼうよ、とはしゃいでいる。
思えば4年間、自分たちは大学生らしいことをほとんどせずに過ごしてきたのだ。お金もほとんど使っていない分、少しくらいなら贅沢な買い物もできる。
「うん、行ってみよう!私UNIQLOで欲しいものあるから、銀座行きたかったんだよね。」
「あおいってば…。私達ももう社会人になるんだし、ちゃんとした服とかバッグとか、ブランド物で一通り揃えようよ!」
だが翌日、意気揚々と銀座のデパートやブティックを見て回った2人は、そのあまりの値段設定に尻込みし、結局UNIQLOで「社会人らしい」服を一揃え購入して終わることになった。
この記事へのコメント
もさい田舎娘をおもちゃにしてないよね?
こんな考えが頭を過ってしまった私は東カレ脳。笑