タフな職場で、ひたすら華やかな集団
「おはようございます!」
朝一番にオフィスに来て、大きな声を出す。
大手監査法人の東京事務所に配属され、ここ飯田橋のオフィスに通うようになって数ヶ月が経った。周囲の人間関係にも恵まれ、あおいは順風満帆な社会人生活を送っている。
宮崎の両親は、娘が東京で1人働くことについても心配している上に、監査法人という多忙なイメージの職場に就職したことを、誇りにも心配の種にもしている。
だが、大学の単位を取りながら資格習得の勉強をこなしていたあおいは、少々の激務ではへこたれない。タフな仕事ぶりで上司からの信頼も厚かった。
「今日のお昼、どこに行くんだろう。」
社会人としての生活リズムにも慣れ、心と時間にも余裕のできたあおいの最近の楽しみは、会社の近くのグルメを開拓することである。
そして、そうした情報を圧倒的に持っているのは、同じフロアで働く華やかな事務職の女の子達だ。
年齢も近いあおいと彼女達が一緒にランチをとるようになるのに、そう時間はかからなかった。
今日は『神楽坂 くろす』という、元リッツカールトン東京の和食の統括料理長が開いた店を予約してくれたという。
2階の個室を陣取り、ネットで話題になっていた鯛茶漬けや大海老天丼などを注文する。ひとしきり料理の写真を撮ってしまうと、彼女たちの一人が唐突に言った。
「あおいさん、前髪のサイドが、またハネてる(笑)」
たしかに今朝は、起きたての髪をそのまま1つに縛っただけで出てきてしまった。それを機に、女の子たちは口々にあおいの外見について語り出す。
「でも、あおいさんって顔は小さいし、背も高くてスラっとしてる。それによく見ると胸もありますよね。なんかズルい!」
「わかる!もっと綺麗にメイクして、ちゃんとオシャレしたら、絶対雑誌の”読モ”とかになれますよー!」
ー雑誌の読モ…って、読者モデル?この私が…?
ポカンとするあおいに、彼女たちはスマホの画面で“GLORY”という、働く20代女性をターゲットにしたファッション誌のウェブ版を見せてくれた。
「ほらこれ、今新しい読者モデル募集してるんですよ。雑誌の中でも読モの審査基準がかなり厳しいことでも有名なんですけど、あおいさんならイケそう。」
「そ、そうかな?」
容姿を褒められたことなどないあおいだが、何故かその“読者モデル募集”という文字の下でニッコリ笑う、人形のような美しい女達に目がクギ付けになってしまった。
「わぁ、意外と乗り気じゃないですか。じゃあ、今からみんなで応募してみましょうよ!私、一人じゃ恥ずかしいと思ってたんです」
そう言った彼女は、あおいに手持ちの化粧品でメイクを施す。マスカラやリップを塗られ、それぞれの服やバッグを交換し合い、道の真ん中で応募写真を撮った。
「はい、これで応募完了。」
ものの15分程度だっただろうか。
だが、このほんのおふざけ程度の遊びがあおいの人生を変えてしまうことになるなど、この時は知る由もなかったー。
▶NEXT:1月26日 金曜更新予定
果たして、雑誌“GLORY”からの反応は―?
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この記事へのコメント
もさい田舎娘をおもちゃにしてないよね?
こんな考えが頭を過ってしまった私は東カレ脳。笑