Who? Vol.4

“絶望”を運んできた、1本の電話。突如降りかかった4,500万の借金で、狂い始める男の人生とは

—この男は、誰だ?—

明晰な頭脳と甘いマスク、輝かしい経歴を武器に、一躍スターダムにのし上がった男がいる。

誰もが彼を羨み、尊敬の念さえ抱いていた。

だがもしも、彼の全てが「嘘」だったとしたら?

過去を捨て、名前を変え、経歴を変え、顔を変えて別人になり、イケメンジャーナリストとしての地位を手に入れた、レオナルド・ジェファーソン・毛利。通称『レオ』

唯一の秘密の共有者であった、芸能界の『女帝』が死んだことを境に、不可解な出来事がレオの周りで起こり始める。

『女帝』とレオが出会った、15年前。ラジオ局で働くという夢を叶え、深い思いはなく“最初の嘘”をついてしまう。人生がうまく回り始めたかに思うのだが…?


『あなたがたのうちの一人がわたしを裏切ります…今夜あなたがたはみな、わたしを見捨てて逃げるでしょう:マタイの福音書 26 』


「佐藤さん、選曲テーマについて考えてみたんですけど、見ていただけますか?」

佐藤さんがデスクに戻ったタイミングを見計らって企画書を差し出すと、驚いたような、嬉しそうな顔をして受け取ってくれた。

「どうした、優也。今週入って3つ目だな。やる気出すのはいいことだけどさ」

「前回、佐藤さんに指摘してもらった部分を直したつもりですけど、どうでしょうか?」

僕の問いには答えず、企画書を読み進めていた佐藤さんの目が文字を追う。そして、パラリと最後のページをめくると、なるほどね、と短くつぶやき、側に立っていた僕を見上げた。

「良くなった。その中でも、この『J-POPからのエール』ってコーナー企画、なかなかいいよ。ボブさんに提案してみるか」

「…え?ボブさんに?」

ボブさんとは、この局で土日のお昼から放送している人気番組を受け持つ、日米ハーフのDJ。ただその番組の選曲は全て洋楽で、J-POPがかかったことはないはずだけど。

「洋楽好きの人たちって日本のポップスのことバカにして聞かない人も多いから、J-POPの提案をたまにはしてみたいねって、ボブさんとこの前話しててさ。

もうすぐアテネオリンピックも始まるし、時期的に『エール』ってテーマはバッチリだろ。来週ボブさんにプレゼンしよう。優也、自分でやってみるか?」

「…ぼ、僕が…自分で、ですか?」

驚いて声が裏返ってしまった僕に佐藤さんが、お前の面接の時を思い出すよ、と笑った。

「普段の雑用をサボっているような奴だったらチャンスなんて与えたくもないけど、優也はそっちもきっちりやってるし、真面目なやつは報われないとな。

それに、お前はタイミングを掴んだ。俺たちが考えたいなと思ってた企画に沿ったものを、たまたまであろうと提案できたんだからな。それも運だ。ボブさんはなかなか企画には厳しい人だけど…」

「どんなに厳しくても大丈夫です!!やらせてください!!あ、ありがとうございます!!」

直角より深く、勢いよく頭を下げた僕に、焦った佐藤さんの声がした。

「おい、みんなが変な顔して見てる。頭、上げてくれよ」

でも、僕は頭を上げられなかった。目の奥がツンとして涙がこぼれそうだったから。

淡々とした僕の日常を評価し、チャンスをくれる人がいた。DJじゃなくてもいい。大好きなラジオ番組を作る立場に、少しでも近づければ。

ー僕の中の、闇も…欲望も、きっと消せる。

「明日の朝までに、プレゼン用の資料作ってきます。本当にありがとうございます!」

そう言うと顔を見られぬよう、逃げるように背を向けた僕を、佐藤さんが「あ、優也」と呼び止めた。

「昨日、一条さんに…あ、女帝のことな。彼女に偶然会ってさ」

「力石くんは元気?って聞かれたんだけど。お前、大丈夫か?名前まで覚えられて、何かされてない?」

「…何かされてない、ってどういう意味ですか」


ーどこまでも追いかけてくる女帝…。そして優也の、2回目の嘘とはー.....

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