
「彼女に嘘をつき続けるのが苦痛…」早朝、女の部屋から静かに去った男の、誰にも言えない葛藤
2019年3月:レオと週刊誌 truthの記者・須田歩の対面当日
激しくなった雨音で目を覚ました僕は、ゆっくりと起き上がってベッド脇に腰掛けた。寝起きの気だるい体に意識を戻しながら、窓に打ち付ける水滴を何とはなしに眺める。
ベッドサイドに置かれた腕時計を手に取ると、午前4時すぎ。
「…起きちゃったの?」
シーツが擦れる音と共に声がして、僕が振り向くと、枕を抱いたままの光希(みつき)が猫みたいにこちらを見ていた。
「…帰っちゃやだ」
秋川光希が、化粧っ気のない素顔で拗ねた顔をしてみせる。その天然の美貌は、僕には眩しすぎるはずなのに、出会って以来誘われるままに関係を続けてしまっている。
決して朝まで一緒にいたことのない僕に対するあてつけのような仕草が可愛くて、僕はつい言ってしまった。
「…雨が弱くなるまでいるよ」
そう言うと、YES!という弾んだ声と同時に、僕の背中に光希が飛びついてきて、僕の腰に回された彼女の手にギュッと力がこもる。
「ずっと、雨が止まなければいいのに」
子供のようなその言い方に、思わず笑ってしまった。
「あ、今の笑い方、好き」
はしゃいだ光希に強引に頰を挟まれ、振り向かされる。
彼女は、僕が作り笑いではなく“本当に”笑った時にだけ今のような反応をする。隙を見せてしまうとそれに一瞬で気がつく、彼女の鋭さのようなものにももう慣れた。
僕の首に手を回した彼女に、キスをねだられる。
それに応えながら、光希といるといつのまにか彼女のペースに巻き込まれてしまっている自分に驚く。
顔を変えて以来、誰かと親密になることは避けてきたから。
それなのに。これ以上光希との距離が縮まることは危険だと分かっているのに、彼女の誘いには応じてしまうし、僕から誘ってしまうこともある。その理由は…
―彼女と眠った夜は…悪夢を見ずにすむから。
この記事へのコメント