—この男は、誰だ?—
明晰な頭脳と甘いマスク、輝かしい経歴を武器に、一躍スターダムにのし上がった男がいる。
誰もが彼を羨み、尊敬の念さえ抱いていた。
だがもしも、彼の全てが「嘘」だったとしたら?
過去を捨て、名前を変え、経歴を変え、顔を変えて別人になり、イケメンジャーナリストとしての地位を手に入れた、レオナルド・ジェファーソン・毛利。通称『レオ』。
レオの、秘密の過去を知る唯一の人物であり、芸能界の「女帝」と呼ばれる一条茜に出会ったのは15年前。
ずっと秘密を共有していた茜が死んだことを境に、不可解な出来事がレオの周りで起こり始めるのだった…。
そしてその『女帝』死を巡って、週刊誌の記者が、レオに近づいてきて…。
『描くべきものは顔の表か?中か?それとも裏か?:ピカソ』
『真実なら何でも暴くべき、ってことでもねーからな、俺たちの仕事は。そこに自分なりの正義と意味を持てない限り、お前が闇に落ちるぞ』
3月も半ばだというのに、まだ寒い新潟・十日町駅。
ホームに降りた瞬間、もっと厚着をしてくれば良かったと思いながら、週刊誌 truthの記者・須田歩(すだ・あゆみ)は編集長の言葉を思い出していた。
これから、冬になれば日本有数の豪雪地帯となる地域に向かう。駅近くでレンタカーを借り、ナビに目的の場所の住所を入れると、所用時間はおよそ50分と出た。
―園田光子(そのだ・みつこ)か。
携帯電話に登録していたその名前をもう一度確認してから、歩は車を発進させた。
運転は随分久しぶりで不安だったけれど、複雑ではない田舎道の交通量の少なさにホッとした。
まだ少し雪の残るのどかな風景の中、園田光子という人を探しに向かう。その人が見つかるかどうか、それは分からない。歩が今持っている情報は、彼女の実家だと思われる住所だけという、心もとない状況だから。
歩は、茜が亡くなる数ヵ月前、こんな会話を交していた。
「歩ちゃん、最近私、ある女の人の夢ばかりを見るのよね。夢の中でその人は恨めしそうにずっとこちらを見ているだけなんだけど。
私はね、今まで自分がしてきたことを後悔したことはないのよ。でも、彼女にだけは、謝りたいと思うようになったの。自分が今彼女と同じ目にあってようやく、私が彼女にしたことの惨さを痛感するようになったから」
茜の言葉に、歩は深く考えずにこう答えた。
「連絡先をご存知なら、今すぐ電話でも、手紙でも、謝ってしまえばいいんじゃないですか?茜さんがそれほど後悔していることを、誠意を持って伝えれば、その方もきっと分かってくれますよ」
すると茜は、歩ちゃんは眩い女の子に育ったわね、と笑ってその話は終わり、あとはいつも通りたわいもない話で飲んだ記憶しかない。けれど。
それからしばらく経ったある日。それは、茜が亡くなる1ヵ月ほど前のことだ。彼女から歩に電話がかかってきた。
この記事へのコメント
これって実は、それぞれの正義の物語なのかも?と思えてきました!
色々と考えさせられました。
幸せになっててほしい!!