2019.03.16
Who? Vol.8—この男は、誰だ?—
明晰な頭脳と甘いマスク、輝かしい経歴を武器に、一躍スターダムにのし上がった男がいる。
誰もが彼を羨み、尊敬の念さえ抱いていた。
だがもしも、彼の全てが「嘘」だったとしたら?
過去を捨て、名前を変え、経歴を変え、顔を変えて別人になり、イケメンジャーナリストとしての地位を手に入れた、レオナルド・ジェファーソン・毛利。通称『レオ』。
レオの、秘密の過去を知る唯一の人物であり、芸能界の「女帝」と呼ばれる一条茜に出会ったのは15年前。
ずっと秘密を共有していた茜が死んだことを境に、不可解な出来事がレオの周りで起こり始めるのだった…。
そしてその『女帝』の死を巡って、週刊誌の記者が、レオの初恋の恋人と対面する。
「あちこち旅をしてまわっても、自分自身から逃げることはできないのだ:ヘミングウェイ」
須田歩(すだ・あゆみ)は、驚くほどあっさりと、求めていた人に会えてしまった。
―神さまが味方してくれているのかも。
宗教も占いも信じないリアリストを自負している歩は、自分がそんな風に思ったことを驚いたけれど、そう思わずにいられない程に、今回の人探しはうまくいった。
―茜さんが探し出せなかったのはなぜだろう。
歩は、車を運転し始めてから3時間後には、その人の自宅に到着したというのに。
「これ、良かったらどうぞ。ちょうどお隣さんに、美味しいお菓子を頂いたところで良かったぁ。わざわざ東京からこんな田舎まで、ご苦労さまです」
耳慣れないイントネーションで声をかけられ、歩は思考を止めて顔をあげた。突然自宅に押しかけた見知らぬ人に、ニコニコとお茶やお菓子まで出してくれたこの女性。
茜が謝りたかった園田光子は、結婚して浅倉光子になっていた。
「ねぇーママぁ」
「優くん、お姉さんに、こんにちは、は?」
「えー…」
光子の背中から、チラチラと歩を覗き見る男の子。母親によく似た、大きなクリクリとした目元が愛らしい。母親に何度か促されて、ようやく小さな声でコンニチワ、と言うと、奥の部屋に向かって走り出した。
「可愛いですね。いくつですか?」
「先月が誕生日で5才になりました。綺麗なお姉さんには、人見知りしちゃうんですよね」
光子はパタパタと走り去る息子の後ろ姿を見送りながら、ふふっ、と笑った。その笑顔に、歩は思わず見とれてしまった。
―キレイな人。
歩が光子から感じた“美”は、容姿の美しさなどという単純なことではない。この人からは、汚れや社会に擦れたなど、その手の疲れが一切感じられないのだ。
恐らく建てて間もないであろう、木の香りがする小さな一軒家。
その明るい光が差し込むリビングで向き合って座る光子は、26歳の歩よりも10くらい年上のはずなのに、歩と同世代だと言われても納得するくらい若々しく、すがすがしい空気をまとっている。
突然東京から訪ねてきた見ず知らずの人間を、すんなり自宅に入れてしまうことも、人を疑わないどころか疑わなさ過ぎるのではないのかと、心配してしまうほどだ。
歩は光子を前にしていると、自分の毒気や邪気のようなものが浮き彫りになる気がして、週刊誌の記者であることを名乗らず本当の目的を隠したままの自分が、恥ずかしくなってきた。
―毒気を抜かれる。
「突然お伺いしてしまって…すみません」
茜のあの手紙はバッグの中にある。
歩が本題を話を切り出すタイミングを探っていると、光子が先に口を開いた。
【Who?】の記事一覧
2019.03.30
Vol.10
Who?最終話:カメラの前で行われる復讐劇。そして勝負の行方は、狂った隣人によって決められる
2019.03.23
Vol.9
「彼女に嘘をつき続けるのが苦痛…」早朝、女の部屋から静かに去った男の、誰にも言えない葛藤
2019.03.02
Vol.6
人気男性タレントに近づく、女性記者の思惑。彼が必死で隠している“裏の顔”に迫る、女の執念
2019.02.23
Vol.5
狙った男を落とすため。4,500万を払って、絶対に誰にも秘密の計画を実行した女の、心の闇
2019.02.16
Vol.4
“絶望”を運んできた、1本の電話。突如降りかかった4,500万の借金で、狂い始める男の人生とは
2019.02.09
Vol.3
隠していたトラウマを突かれ、女の甘言に堕ちた男。こうして夢見た青年は、地獄の扉をノックする
2019.02.02
Vol.2
芸能界に君臨する「女帝」からの、最初の誘惑。彼女から寵愛を受けていた男の、秘密にしたい過去
2019.02.02
Vol.1
Who?:「嘘」で成り上がった男の、崩壊の始まり。名前と顔を変えて別人になった男の、悲しい人生
おすすめ記事
2019.03.09
Who? Vol.7
痴情のもつれか、それとも…?女が復讐を誓った、読んではいけない手紙に記された懺悔の言葉とは
2020.04.08
フレネミーな2人
フレネミーな2人:「あの子、失敗してくれたらいいのに」看板アナの座を狙う、新人女子アナの裏の顔
2024.04.18
離婚カレンダー〜夫婦の正しい終わり方〜
北参道のタワマンに住む34歳主婦。結婚5年、突然の離婚危機で直面した金銭問題とは
2023.02.07
ナシ子先輩の幸福な人生
「早く子どもを作ったら?」と騒ぎ立てる姑。機転を利かせた“ある一言”で、姑は沈黙し…
2023.02.08
もう1人の私
Amazonプライムのおすすめ動画を見て、30歳男がふと思い出した元カノ。思わずLINEしたら…
2022.02.28
ある事件を示談で解決した敏腕弁護士。しかし半年後、男の身に“まさかの災難”が…
2020.06.04
君が僕で、僕が君で
君が僕で、僕が君で:「隣にいるのは一体誰?」美女と一夜を共にしたはずの商社マンを襲った悲劇
2022.12.20
ナシ子先輩の幸福な人生
ナシ子先輩の幸福な人生:「彼ナシ・夢ナシ・貯金ナシ」31歳・お嬢様OLが直面した現実
2017.04.11
港区内格差
港区内格差:“港区特権階級”に属す一握りの男。そこに群がる女たちと、うごめく欲望
2020.05.16
男と女の答えあわせ【Q】
「こういう女性は、友達止まり」と男が思った、デート中に女がうっかりやっている行動
東京カレンダーショッピング
『かに物語』:〆まで楽しめる雑炊の素付き!蟹の旨みがたっぷりと溶け出すかに鍋セットミニ
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『東京京橋おばんざい醸』:肉を引き立てる3種の塩!A5黒毛和牛を使ったローストビーフ
『かに物語』:海老・帆立・蟹!ベシャメルソースに、各種海の幸をトッピングした贅沢グラタン
『UMIKARA』:薄切り・厚切り食べ比べ!特製出し汁で味わう若狭湾真鯛の鯛しゃぶセット
『パンツェロッテリア』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『オリベート』:黒トリュフ香る、口当たりクリーミーな究極のティラミス
『ミホ・シェフ・ショコラティエ』:日本を代表するショコラティエ―ルが作る、 ショコラ好きのための濃厚ガトーショコラ
『LOUANGE TOKYO』:アート感溢れるビジュアル!口溶けなめらかな大人の生チョコレートエクレア(6種)
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2025.01.18
Editor's Choice~hotel~
「グランド ハイアット 東京」で1人800gのカニが楽しめる!期間限定のブッフェで冬を満喫しよう
2025.01.15
運命なんて、今さら
28歳女性と初デート。待ち合わせ場所に現れた女の服装をみて、男が息をのんだワケ
2025.01.18
男と女の答えあわせ【Q】
2ヶ月でデートは2回だけ…。大人の恋愛がスムーズ進む、会う頻度の正解は?
2025.01.13
1LDKの彼方
「結局、料理上手な女性が好き」広告代理店勤務・27歳男のリアルな本音
2025.01.19
男と女の答えあわせ【A】
デート数日前に「体調が悪い」と女性から連絡が来たら、どう対応するのが正解?
この記事へのコメント