
私を捨てるなんて、許さない。芸能界の頂点にいる女が嫉妬心に駆られて仕掛けた、狡猾な罠
「東京から私を探して訪ねてきた人がいた、と父が電話をくれたのは、実は初めてじゃないんです。またその女性だったら嫌だなと思ったんですけど、お若い方だというので、お会いしてみることにしたんです。
東京からの知らせに良い思い出はないんですけど…懲りないな、と自分でも思ってます」
「その女性は…一条茜さん、ですよね」
歩の言葉に、柔らかかった光子の表情が固まった。何かを求めるように口が開いたが、言葉は何も発せられない。
「一条さんは、あなたに謝りたいとおっしゃっていましたが、それが叶わぬまま亡くなりました。私は一条さんに近しい者で…これは生前、私が彼女から預かった手紙です」
向かい合った机の上、歩が光子の方へ封筒を差し出した。光子はしばらくその封筒を凝視したあと、大きく深呼吸をすると恐る恐る封筒を手に取った。
便箋を取りだす音がした後は、静寂が続いた。優と呼ばれた少年がおもちゃで遊んでいる音や声が時折聞こえてくるが、光子は夢中で読み続けている。
歩も、茜のその長い手紙を暗記してしまうのではないかという程、何度も何度も読んでいる。
だから、光子の視線が便箋をなぞり、その手が1枚目、2枚目とめくる様子を見ていると、茜の声でその文章が聞こえてくる気がした。
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園田光子さま
私を恨んでらっしゃるあなたに、今更許してもらいたいということが、いかにずうずうしいことなのかは、十分承知した上で尚、この手紙を書いています。
10年以上前に、突然訪ねて行った私があなたに言ったこと、覚えていらっしゃいますか?…忘れられるわけ、ありませんよね。
あの時私は、優也さんがラジオDJとして活躍するために整形し、別人に生まれ変わったのだとあなたに伝えましたが、誰になったかを教えてはいませんでしたよね。
あなたの恋人だった力石優也は、レオナルド・ジェファーソンに生まれ変わったのです。私が彼に、人種さえも変える整形を提案し、それが成功して彼はスターになりました。
あの時、なぜ、私があなたの元を訪ねたのか。そしてなぜ、酷い嘘をついてしまったのか…後悔ばかりのあの日のことを、これから書かせてもらいます。
まず、なぜ、私があなたの元を訪ねたのか、ということから、お伝えしたいと思います。
ーようやく語られる真実。光子に会いに行った茜は、一体何を話したのか?その内容とは…ー.....
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この記事へのコメント
なかなか終わらないから、まだ読める!と嬉しかったです。笑