「女は、商社マンが好きだろ?」
慶應卒、大手総合商社勤務、人並み以上の容姿という、恵まれたカードを持つ男・小山鉄平(29歳)。
最強カードを武器に、食事会でも会社でもひときわ強い輝きを放つ男。
そう、いうなれば彼こそ『お食事会の星』。
だが最近、そんな鉄平に陰りが見えてきた。それは、ほんの些細なきっかけだったのだが…。
冴えない同期・瑛士にいつの間にか仕事もプライベートも追い越されそうになり焦りを感じる鉄平。食事会で、瑛士が礼実を狙っていることを感じ、鉄平は思わず礼実の手を握りしめるのだった。
「礼実ちゃん、後で二人で抜けようよ」
瑛士たちが騒いでいる隣で、鉄平は礼実の手をそっと握ったまま耳元で囁いた。食事会で、こうやってストレートに女の子を誘うのは久しぶりだった。
食事会のKGIを「お持ち帰り」に設定しているわけではないが、瑛士が礼実を見る鋭い視線に刺激され、鉄平は焦った。
―また、瑛士に持っていかれる。
そんな危機感が、鉄平を突き動かしたのだ。
東京には商社マン好きの女なんて、ストームトルーパーやクリボー並に生息している。
慶應卒、大手総合商社勤務、人並み以上の容姿という、恵まれたカードを持つ鉄平にとって、自分は女性を選べる側だと余裕綽々だった。
だから、男相手に敵対心を燃やすことなんてなかった。ましてやその相手が、よりによってあの瑛士なんてありえるはずないのに…。
気づけば礼実の手を握っていた。
「え、冗談じゃなくて?」
礼実はそう言いながらも、さっきまでの女子アナ風のさわやかな笑顔とは違う、少しだけ小悪魔チックな笑顔を向けてきた。
鉄平が握った手も、振りほどかれることもなくそのままだ。
「本気で言ってる?」
礼実はもう一度言った。
鉄平は、瑛士の鋭い視線を感じながらも、真剣な顔でこくりと頭を上下させた。