てっきり、うだつのあがらないベンチャー企業で、働き蜂のようにこき使われているとばかり思っていた。
だが目の前に座る一郎は、仕事が楽しくて仕方ないとでも言うように、溌剌とした笑顔で仕事の話をする。
「最近になってようやく土日も休めるようになってな。やっと落ち着いてきたよ。それよりお前の方はどうなんだ、鉄平。総合商社も、これからは大変だろう?」
挙げ句の果てには、安定の大企業である商社を心配される始末だ。
「まあ、世間ではそんなこと言う人もいるみたいだけど、商社は大丈夫だよ」
強がりではなく、心からそう思っている。それなのに、なぜか鉛のように重たいものが、胸の奥に垂れ下がり、そっとしておいてほしい何かを引き攣らせる。
「そっか、そうだな」
一郎は一言言うと、その話題を終えて日本の輸出や世界情勢の話、最近の日経平均株価のトレンドについて話をしてきた。
「一郎、お前やたら経済の状況に詳しいな」
「いや、まだまだだよ。大小関わらず、社長さんたちとの会食も多いから、これくらい知ってないと話にならないからな。鉄平、お前だってそうだろう?ビジネスマンだったら必要な知識だよな」
当たり前のように言われて、鉄平は頷くしかできなかった。
鉄平だって、ざっくりとした話であればできる。だが、自分なりの見解を言えるほど、詳しくはない。しかしそんなこと、言えるわけがなかった。
◆
一郎に、当たり前のように言われたからじゃない。ましてや、瑛士が食事会で株の話をしていたからでもない。
知識を増やすためだと自分に言い聞かせて、鉄平は株の勉強を始めた。
形から入るタイプの鉄平は、まずは四季報を買い、時間がある時にはぱらぱら眺めるように見るだけだったが、自分がよく行っている六本木のレストランが実は、憧れの超高級レストランと母体が同じであることを知った時などは、素直に面白いと感じるようになっていた。
―そういえば珠理奈ちゃんが、アプリがどうとか言ってたな。
株の勉強を始めてしばらく経った頃、食事会で会った証券女子・珠理奈の言葉を思い出した。
「口座開設かぁ…」
珠理奈が言っていたのはたしか、「株touch」。アプリは見つかったが証券口座を開設しないと使えないらしい。
―ハードル高いなぁ…。
思わずスマホを放り投げたい衝動に駆られる。だが、一瞬の面倒臭さよりも、焦りの方が勝った。そうして鉄平は、口座開設ボタンを押したのだった。
数日後、松井証券から届いた書類にサインしたちょうどその時、礼実からLINEがきた。
-瑛士くんと付き合うことになりました。念のためのご報告です♡-
「はあっ!?」
スマホ画面を見ながら、思わず大きな声がでた。
▶NEXT:12月22日 金曜配信予定
商社マンを狙う礼実のしたたかな策略が明らかになる…!?
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