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  • お食事会の星☆ Vol.3

    お食事会の星☆:総合商社の平社員と、社員5人のベンチャー役員。30歳男の理想はどっち?

    「ハッピーバースデー!」

    翌日、鉄平は銀座の『リストランテ クロディーノ』で礼実に誕生日を祝ってもらっていた。

    昨夜は2次会のカラオケを途中で抜けだし、礼実をマンションに連れて帰った。そして朝を迎えると、彼女は爽やかな笑顔で言ったのだ。

    「今日、お祝いしてあげるね♡」と。

    早朝に一度帰った礼実だが、その夜また彼女と会い、こうしてレストランに来た。礼実は席の予約だけでなくケーキまで予約してくれており、鉄平を大いに驚かせた。

    だがこの日の会計は全額鉄平が払い、レストラン集合レストラン解散という謎システム。鉄平は釈然としない思いを抱えながらも、こうして誕生日当日を終えた。

    掴みどころのない女・礼実。

    礼実を可愛いと思ったのは確かだが、瑛士に負けたくないという思いから彼女を誘ったのも事実だ。

    そんな思いもあり、少しの後ろめたさとともに鉄平の30代が始まってしまった。



    ―女より、男の嫉妬の方が陰湿だ。

    世間でよく言われる言葉だが、そんなことを真に受けたことはなかった。だが今、鉄平は人生で初めて「嫉妬」という感情を自分の中に捉えた。

    正確には初めてではないが、これまで恋愛絡みで感じていた嫉妬とは明らかに質の違う、それよりももっと濃度が濃くて、ねっとりと粘りついて離れない、嫌な感触のもの。

    それが、瑛士への嫉妬心だ。

    この数週間、瑛士の顔をまともに見ることもできなくなってしまった。

    そんなある日、ふと目に飛び込んできたFacebookのタイムラインから、旧友の一郎に連絡を取った。

    一郎は、同じ慶應大学出身で、皆が大手企業に就職を決める中、「俺はベンチャーに行く」と早い段階から宣言していた男だ。

    なんとなく、一郎に会いたかった。

    それはただ、不安定なベンチャーに行った男に大企業の看板を見せつけて、安心したかっただけかもしれないが、それくらいしか今の折れそうな自分を支える術が見つからなかった。



    待ち合わせしていた店に入ると、一郎はすでにビールを飲んでいた

    大学卒業後に何度か飲み会で会ってはいるが、最後に会ったのはもう数年前だ。

    「鉄平、お前不規則な生活と会食で、ぶくぶく太ってるんじゃないかと思ったけど、案外そうでもないな」

    一郎は、学生時代と変わらない笑顔で言った。

    「まあな。ジムに通ったりフットサルしたり、太らないように気をつけてるからな。昨日もジムで5キロ走ったし」

    男30歳。最近では社交辞令のようになった、互いの体型について話し終えると、話は自然に仕事へと移った。

    「一郎、お前今も同じ会社にいるのか?」

    鉄平が聞くと、一郎は手に持っていたビールをテーブルに置いて少し遠くを見るような目をした。

    「そうだなぁ、最後に会った時はどこにいる時だっけ?もう3社目だよ。全部ベンチャーで、今はようやく取締役になれたところだ」

    「取締役?」

    聞き慣れない言葉に、思わずむせそうになる。

    「ああ。と言っても社員5人の会社だけどな」

    “5人”と聞いて、少しだけホッとした自分が、鉄平はつくづく嫌になった。

    名刺を見せてもらうと、そこには「COO」という文字が刻まれている。実質のNo.2ということだ。


    事業内容はスマホを使って、洋服を買ったりレンタルしたりできる女性向けのサービスを展開しているらしい。

    鉄平は知らなかったが、会員はすでに5万人近くいるそうだ。

    「5万人…」

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