「女は、商社マンが好きだろ?」
慶應卒、大手総合商社勤務、人並み以上の容姿という、恵まれたカードを持つ男・小山鉄平(29歳)。
最強カードを武器に、食事会でも会社でもひときわ強い輝きを放つ男。
そう、いうなれば彼こそ『お食事会の星』。
だが最近、そんな鉄平に陰りが見えてきた。それは、ほんの些細なきっかけだったのだが…。
鉄平はお食事会で狙っていた女の子を、冴えないと甘く見ていた瑛士にお持ち帰りされていたと知りショックを受ける。
鉄平は、会社近くのカフェでコーヒーを飲みながら、人生で初めてのことに戸惑っていた。
前回の食事会で、久しぶりに鉄平の心をザワつかせた美和子を、あろうことか瑛士が持ち帰っていたのだ。
「冴えない男」と思っていた瑛士にあっさりと追い抜かれたような屈辱感。
鉄平は、食事会では負け知らずだった。
食事会に行くために、仕事を巻くのがカッコいいと思っていた。
出社して早々「いやー朝4時まで飲んじゃって。4時なんてついさっきですよ」と言いながら頭を掻くのも商社マンのステータスだと思っていた。
女の子に誘われても「商社マンって聞いて寄ってくる女の子は、ちょっと勘弁ですね」と当たり前のように言っていた。
先輩から「食事会組んで」と言われれば誰よりも早く、可愛い子を揃える自信があった。だから先輩たちからも可愛がってもらってきた。
それなのに瑛士は、よくわからない企業のことで八木先輩と楽しそうに盛り上がっていた。
食事会でも、会社でも、鉄平が固め守り抜いたポジションを、あっさりと瑛士に奪われてしまいそうな、何とも言えない焦りが鉄平を浸食しようとしていた。