LESS~プラトニックな恋人~ Vol.3

LESS~プラトニックな恋人~:私と抱き合えなくて、あなたはどうして平気なの?

抱き合えなくて、平気なの?


「お待たせ」

20時を少し回る頃、健太はやってきた。

時間にあまり正確と言えない彼なのに、約束の時間にきちんと仕事を切り上げ来てくれたのは、彼にも何かしら思うことがあったからだろうか。

夜の喧騒の中で見るスーツ姿の健太は少しだけ新鮮で、それは彼にとっても同じだったのだろう、健太は私のシャツワンピースを「似合うね」と褒めてくれた。

私たちは、いろんな話をする。

健太の仕事の話も聞くし、私の職場での出来事も話す。健太がおしゃべりだから、彼の先輩であるやまちゃん(私と健太が出会った食事会の、男性側の幹事だった)の直近のデートの結果まで、なぜか私も知っているくらいだ。

この日もお互いの思いつくまま気のおけない話をした後、一瞬、会話が途切れたときに…私はついに、ずっと聞けずにいたことを尋ねる覚悟を決めた。

そう、ただひとつだけ、私たちが決して触れてこなかった、あのことを。

「ねぇ健太」

そう切り出した私に、彼の目が一瞬、泳ぐ。

浅い付き合いなら見逃していただろう、そのほんの些細なしぐさから、彼が私の改まった声に怯えていることに気づいて、続きを躊躇してしまう。

それでも私は、もう言葉にせずにはいられなかった。

「健太は…どう思ってるの?私と…その、抱き合えなくても、平気なの?」

精一杯、平常心で尋ねたつもりだったけれど、その声は自分の耳にさえも浮いて聞こえた。

私の言葉に健太は一瞬、小さく顔を歪める。しかしすぐにいつもの笑顔を浮かべ、宥めるような口調で私に笑いかけた。

「…そんなこと、気にしてたの?そんなの別に、しようと思えば、いつだってできるよ」

−いつだってできる?

違う。そんなのは、嘘だ。

私も最初は健太と同じように、大したことじゃないと思い込もうとした。けれどそれは逃げているだけ。何の解決にもならない。

「いつだって、って私たち、もう1年近くしてないのよ?ちゃんと、この問題と向き合って、解決策を考えた方が…」

「問題って、別に、何の問題もないよ。俺は美和子が本当に大好きだし、最近は…その、そういう雰囲気になっていないだけで。自然に、何かのきっかけで、できるようになるって」

私の言葉を遮るようにして、彼は一気にまくし立てた。

健太の言い分に納得したわけではもちろんないけれど、彼の、どうにか必死で私を説き伏せようとする姿を見ていると、私はそれ以上、もう何も言い返す力が湧いてこなかった。

…多分、私も健太も、わかっていたのだ。

男女というものは、プラトニックな関係に陥ってしまったが最後、抜け出す術など、どこにも用意されていないことを。


▶NEXT:11月21日 火曜更新予定
問題に向き合うことすらできない…悩んだ美和子が、向かった先。

東カデー詳細はこちら >

東京カレンダー 月刊誌詳細はこちら >



【東カレ読者アンケート実施中!】

アンケートに答えて、家でも最高のビールを愉しめる「神泡体感キット」をもらおう!
アンケートはコチラから!

【LESS~プラトニックな恋人~】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo