LESS~プラトニックな恋人~ Vol.2

LESS~プラトニックな恋人~:不完全燃焼に終わった夜。この日を境に歪み始める男と女

満たされなかった、欲望


それは年末の、ある夜だった。

社交的で付き合いの良い健太は、日頃から飲んで帰ってくることが多い。それが年末ともなれば尚更で、彼は連日のように午前様で帰宅していた。

「いったい何回年忘れれば、気が済むの?」

明け方、申し訳程度にシャワーを浴びベッドに潜り込んできた健太に私が呆れた声を出すと、彼は問いには応えず無言で覆いかぶさってきた。

そして私を宥めるかのように、首筋に唇を這わせる。

同棲を始めた当初のように寸暇を惜しんで求め合うことはなくなったけれど、一緒に寝坊した土曜の朝や、のんびり過ごした日曜の夜、時々は狭い湯船に一緒に浸かって戯れあった末、私たちは自然に体を重ねた。

そう、少なくとも、この夜までは。

寄せては返していた快楽の波が急に途切れてしまって、私はゆっくりと瞳を開けた。

「あれ?…ごめん」

私の上に乗ったままの健太の、弱々しい声が聞こえる。暗闇にうな垂れる健太の影を捉え、私は瞬間的に「ああ、そういうことか」と理解した。

宙ぶらりんになった、行き場を失くした欲望に落胆はしたけれど、それよりも力なく寝転がった健太が可哀想で、私は彼の背中にそっと声をかける。

「…気にしないで。きっと、飲み過ぎたのよ」

私の言葉に彼は「うん」と頷き、子どもが母親に甘えるようにして胸元に顔を埋めてきた。

私は彼の頭を撫で、そのまま朝までただ抱き合って、眠った。


−そんなこともあるだろう。大したことじゃない。

私はそう自分に言い聞かせ、この夜の一件を忘れようと試みた。

しかしこの夜を境に、私…そしておそらく健太も、快楽の果てにたどり着くことができなくなってしまった事実は、消すことができなかった。

何度か、トライはした。しかしいつも、不完全燃焼で終わってしまう。屈辱と、満たされぬ欲望に蓋をするようにして、私はいつしか求めることをやめてしまった。

それは諦め、というマイナスな言葉とは違う。

手に入らぬものを求め続けることほど、辛いことはない。自分が楽になるためでもあったけれど、どちらかというと彼を追い詰めたくないという、愛しているからこそ生まれる感情だった。

経験したことのない人には理解してもらえないかもしれないが、私は女として性の欲望が満たされなかったとしても、健太のことを愛していたのだ。

そしてきっと、健太も同じ気持ちだったのだと思う。

私たちは、阿吽の呼吸で“そのこと”に触れなかった。そしてその限りにおいて、私たちの関係は変わらず良好だったのだ。

共に過ごす二度目のお正月には江島神社に初詣に行き、健太がどうしてもというから(私は恥ずかしいと言ったのに)ハートの絵馬を書いたりもした。

お互いに結婚に焦ってはいなかったけれど、健太が未来の話をする時そこには当たり前に私の存在があり、そのことは私を安心させ、同時に苦しめもした。

−私たち、このままでいいの…?

心に浮かぶ疑問に、私は必死に気づかぬふりをした。

時は静かに、そして非情に過ぎていく。そうして私の心の膿は外に出すことを許されぬまま、肥大していったのだ。

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