2011.10.21
次世代を牽引する若手実力派 Vol.2名店で磨いた腕で勝負する、実直なる次世代蕎麦職人
名店で磨いた腕で勝負する、実直なる次世代蕎麦職人
「最も充実した時期に幕引きしたい」との意向から、『六本木竹やぶ』が暖簾を下ろしたのは今夏のこと。8年間、人気店を切り盛りしてきた苅部政一氏はこれを機に独立。念願の店を構えた。
新天地は神楽坂の路地裏の、さらに奥という人目を忍ぶようなロケーション。割烹だった店舗を借り、懇意の大工さんとセルフリフォームしたそうだ。イチイ、ナラなど異なる木の板を張り合わせた床、煤竹のパーテーションなど、温かな空間が、店主の人柄を物語っている。
蕎麦や酒肴は、修業先の味を継承。その中で、特別な思いを込めるのが、天ぷら蕎麦である。
かけ汁を張った蕎麦に、才巻海老のかき揚げを添えた別盛りは、『竹やぶ』独自のスタイル。揚げたてを蕎麦に移せば、湯気とともにジュジュ~と香ばしい音色が立ち上がる。
「『竹やぶ』に入ったのは、この蕎麦に憧れたから。初めて食べた時の感動は忘れられません」との言葉の通り、彼にとっては原点の味なのである。もっとも、この品、修業すれば誰でも作れるものではないらしい。衣はサクサク軽く、中はとろっとクリーム状に揚げるのがポイント。それには、衣の溶き加減、油の温度、油に投じるタイミングなどの条件を揃えることが必須である。
「僕が理想とするのは旦那さん(『竹やぶ』主人、阿部孝雄氏)の揚げた、かき揚げ。少しでも近づきたいという思いで、いつも鍋に向かっています」
まさに1回、1回が真剣勝負。スタートラインに立った彼の意欲が味わいにも漲っている。対する蕎麦は、つなぎなしの十割。ふわっとやさしい舌触りから、穀物の甘味が楚々と解き放たれる。澄んだかけ汁も品がよく、手繰るほどに油のコクが加わっておいしさ倍増。食べ切るのが、惜しくなるほどだ。
名店で磨かれた確かな腕に、今後、いかに自分らしさを重ねていくか。とまれ、神楽坂に足を向ける機会が、俄然、増えることは間違いない。
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