美和子は会社の花形部署である広報部にいて、雑誌やネット記事などのメディアに数多く取り上げられる、有名社員だ。
リナとは正反対の"近寄りがたい美人”で、彼女に憧れる男性社員はたくさんいた。だからまさか同期の哲也を選ぶとは、思ってもいなかったのだ。
美和子は、とにかく噂の絶えない女だった。
10歳年上の経営者と付き合っているとか、年下の彼氏がいるとか、実は長年彼氏がいないとか。
しかし蓋を開けてみれば、結婚相手は同期でSEの哲也という意外な事実が発覚した。これには、社内でも激震が走った。
たしかに二人は、仲が良かった。会社の休憩スペースで一緒にランチをしていた姿を、何度か見かけたことがある。リナも一度だけ、哲也にくっついて3人でお昼ご飯を食べたことがあるのだ。
そのとき、何も知らないリナは余裕綽々だった。美和子は仕事が忙しいのか、肌が少し荒れていたので、リナが使っているホットクレンジングジェルを教えてあげたりもした。
あのとき既に、二人は付き合っていたのだろうか。リナは当時、残業帰りに週2回くらいは哲也とご飯に行っていたのに(他の人もいたが)、全く気づかなかった。
哲也の隣にいる美和子からは、幸せオーラがにじみ出ている。あのときの疲れた感じは、全くない。
その幸せそうな姿を見ていると、悔しくてたまらない。
リナが思わずうつむくと、隣に座っていた同期の亮平が「大丈夫?」と心配してくれた。
しかし心配されると、余計に辛くなってしまう。
皆が二人の"秘密の社内恋愛"の話で盛り上がっている途中、リナは思わず席を立った。
我慢している哲也への思いが溢れて、涙がこぼれそうになったのだ。