男女の恋の違いは、こんな風に言われる。
女が恋するときは"上書き”保存、男は別フォルダ。
女性は過去の恋をすぐに振り切り、次の恋へ進むのだ。しかし女にだって、上書きできない恋はある。
それが、毎日顔を会わせる社内恋愛だったら、尚更のこと。
渋谷にある大手IT企業に勤めるリナ(26)には、入社以来3年片思いしている先輩がいた。
これはなかなか“上書きできない女”が一歩前へ進もうとする、ある恋の物語―。
社内恋愛の、失敗。
ありふれた出来事のようだけど、いざ自分の身にふりかかると、こんなに辛いものだとは知らなかった。
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リナはこれまでの26年間、“失恋”というものを経験したことがほとんどなかった。
とびきりの美人という訳ではないが、昔からそれなりにモテる。好きになった男性が振り向いてくれなかったことは、記憶の限り一度もない。
透き通るような色白の肌に、形の綺麗な卵型の輪郭。特別大きいわけではないけれど、笑うと思いきり垂れる目がチャームポイントだ。
その笑顔を見せると、"小悪魔だ"と言った男性もいた。
結局男というのは、近寄りがたい美人より可愛らしくて話しかけやすい子の方が好きなのだ。それはリナが26年間、身を持って感じていることだ。
だから新入社員時代からずっと好きだった先輩である哲也とも、当然のように付き合えると思っていた。
それなのに今、なぜ自分はこうして哲也の結婚を祝っているのだろうか?
今日は、結婚を決めた哲也の新居に、同僚数人が招かれていた。
三軒茶屋から徒歩10分の新築マンション。白で統一されたインテリアや、テレビボードに飾られた写真からは、新婚夫婦の幸せがにじみ出ている。
哲也の隣で微笑むのは、リナではない。「社内一の美人」と呼び声の高い、美和子だ。