2017.07.21
SPECIAL TALK Vol.34iPS細胞と再生医療日本のこれから
金丸:ところで、iPS細胞は今後どうなるんでしょう? 山中伸弥先生がノーベル賞を受賞したのをゴールだと思っている人たちもいますが、実際にはこれからじゃないかと。
高橋:そのとおりです。実はES細胞とiPS細胞って、機能としてはまったく一緒で、ほとんど違いがないんです。世界に視野を広げると、ES細胞で突き進もうとしている人たちも大勢います。そんな状況で、どうやって日本のiPS細胞の技術を広めてビジネスにしていくか、非常に難しいところです。
金丸:そう、ビジネス。その視点が、日本はいつも欠けていますよね。
高橋:京大病院の探索医療センターで初めてラボを持ったとき、企業の方からいろいろアドバイスをいただいたんですが、なかでも特許のことを教わったときは、本当にびっくりしました。
金丸:日本は遅れているでしょう。
高橋:そうなんですよ。アメリカは1970年代から、特許によって大学の財政が潤っていた。一方日本は、2000年代に入るまで、特許を取らなくちゃっていう動きは一切なくて、日本はいったい何してたんやろと。
金丸:その間に、ほかの国に全部特許を取られてしまった。とくに基礎研究においては、日本が相当早かった分野はいっぱいあったのに、全部持ってかれちゃったわけですよ。特許って申請ベースだから。
高橋:そして日本が大学も特許を取らなくちゃと言い始めた頃、アメリカでは大学が特許を専有すると弊害がある、という議論が巻き起こっている。周回遅れもいいとこです。
金丸:再生医療で同じ轍は踏みたくないですね。
高橋:そのためにも行政のサポートは必要だし、壁があれば取り除かなければいけない。厚労省といつも交渉してますよ。
金丸:成長分野を見極めて、国の未来を賭けると決めた戦略分野については、もっと柔軟に対応すべきなんです。日本の未来のために。
高橋:本当にそう。目的が何なのかわからないルールに縛られることが、いまだに多いですよね。日本のおかしなところって、何かトラブルが起きるたびに、ルールが厳しくなるじゃないですか。普通にやっている人たちの手足まで縛って。たとえば研究費の流用にしても、不正した人を厳しく処罰すれば済むはずなのに。
金丸:日本は自虐的な側面がありますからね。お互いに縛り合って、自分たちの首を絞めている。
高橋:なんで変わらへんのですかね。あれがどれだけ多くの人の足を引っ張っていることか…。私たちも一切自分の利益にならないようにしながら、より研究しやすい環境を作ろうとしているんですけど、それでもいろいろと縛りをかけられてしまう。
金丸:一方で私は、理系で頑張った人が大金持ちにならない国は、今後勝てないと思いますよ。
高橋:そうかもしれません。新産業構造部会に参加して、本当にショックでした。人工知能やビッグデータのお話を聞いていると、世界はすでに新しいステージに移りつつある、これまでとは全く違う社会になっていくことを感じます。これって、明治維新と同じぐらいのインパクトがあるんじゃないかと思うんです。
金丸:そのことに一般の人どころか、大企業のトップ層ですら気づいていません。「ITのことはさっぱりで」なんて笑っていたりする。
高橋:それで許されると思っちゃ、ダメですよね。ちゃんと正面から受け止めないと。
金丸:電気自動車のテスラがまだ大した台数しか販売していないのに、あれだけの時価総額があるというのは、それだけその価値に気づいている人が多いということなんです。
高橋:未来の価値に投資しているってことですよね。
金丸:そう。未来の価値を評価しているんです。未来といえば、高橋さん、念願の医療施設がこの冬にオープンするんですよね。
高橋:はい。今年の冬、神戸市に「アイセンター」をオープンします。iPS細胞を使った網膜再生医療の研究拠点なんですけど、研究だけじゃなくて、治療やリハビリや患者さんの生活上のケアまでトータルに行うんです。
金丸:それはまた、ユニークですね。
高橋:患者さんにとって必要なことを、すべてできるようにしたくて。そのうえで医療も福祉も、採算が取れる施設にしたいですね。
金丸:やっぱり高橋さんには、これからも先頭を突っ走るホームズでいてもらわないといけません。今日はお忙しいところ、貴重な時間をありがとうございました。
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