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  • 「自分の中にある本当の可能性って?」。29歳、順風満帆に思えた人生の岐路に立った男を目覚めさせた、ある夜の物語。

    ところが、本来は嬉しさに溢れているはずの心は、なぜだかザワついていた。

    大学を卒業して、これまで夢中で目の前の仕事だけをしていればよかったが、気づけば29歳になり、もうそういう時代は終わりを告げようとしている。そして、出世や恋愛など、人生にいろいろな要素が絡み合ってきている。

    大人になるほど人生は複雑になる中で、実は“自分のキャラクター”がぼんやりしている気がしていた。いままでの自分以上に、自分には一体どんな可能性があるのだろう。

    初めて自分という存在に疑問を持った。

    サードプレイスとなるバーで、自分と向き合う

    異動の話がでた週の金曜の夜、珍しくどこにも寄らずにひとり家に帰ろうと思っていた。少しゆっくりとした足取りで歩いていると、小窓と木の扉を構えた店が目に入ってきた。目の前に行くと、店名を掘った小さな板が扉に貼り付けられていた。

    あれ、こんなところに店あったっけ?

    小窓を覗きこむと、ウッディなテーブルと、ほどよく落とされた照明の中に、7~8名の客がいた。金曜日の喧騒から解放されたかのような空間に、自然と足は向いた。

    バーテンダーは、40代前半くらいの端正な顔立ちをした男性。名は金子さんというらしい。

    金子さんがひとりで切り盛りする店にはジャズやボサノヴァなどのセンスのよい曲が流れ、スマートフォンを見なくても、お酒があれば間のもつ空間がそこにはあった。

    自然と金子さんに話しかけていた。

    「もっと早くに気づけばよかったです。会社が近くて」
    「そうなんですね。うちはとくに看板もないので、目立たないですよね」

    しばらくすると店の忙しさがひと段落し、金子さんは直人の前に立っている時間が長くなった。

    「今度、部署を異動する話があるんですよ。これまで広報しかやってこなかったのにWEB戦略部門のリーダーができるのか不安で…」

    誰にも言っていないことを、気づけば話していた。案外男は、自分のこととなると友達にも恋人にも、同僚にも話さないものだ。

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