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  • 「自分の中にある本当の可能性って?」。29歳、順風満帆に思えた人生の岐路に立った男を目覚めさせた、ある夜の物語。

    大手家電メーカーに務める小林直人は、社会人8年目の29歳。

    順調なサラリーマン生活を送りながらも、ある日人生の岐路に立たされ、初めて自分という存在に疑問を持つ。
    そんなある日、一軒のバーへ足を踏み入れたことで直人の毎日が変わることとなる…!?

    順調なようで、気持ちはさまよっている直人

    20時。いつも通り、少しの残業をして帰宅だ。もうこれ以上集中するのは辛いな、と思ったころに会社をあとにできる労働環境は悪くない。

    収入も年ごとに増えているし、ひとり飯で5,000円を躊躇なく使える手取りは恵まれているだろう。今夜はどうしようか…。もう少し奮発して、気になっていた料理屋に行ってみるか。仕事でいいことがあった今日くらい。

    その日、本部長からの呼び出しは突然だった。
    「新設されるWEB戦略部門の部門長に、若い人材からの抜擢ということで、君を推薦したいと思っている。君自身の気持ちも聞かせてもらいたいので、来週までに考えておいてくれ」

    猪突猛進、広報部で真面目に仕事をこなし、気づけば29歳。30歳を前に、またとないチャンスがやってきた。

    広報しかやってこなかったのにWEB戦略部門のリーダーができるのか…と、不安は感じるものの、WEBという数字が顕著に表れる世界で自分の采配が試されるのだから、率直な感想は、嬉しかった。

    ご褒美のつもりで和食店のカウンターで食事をしていると、今度はアプローチしていた美香から携帯にメッセージが入った。

    「来週の夜、OKだよ」

    美香は大学のテニスサークルの同期で、卒業して5年ぶりに皆で再会したら、垢抜けてきれいになっていた。昔から変わらぬ美香の性格の良さにも惹かれ、直人はアプローチを続けていたのだ。そして、ついに初デートにこぎ着けた。

    嬉しいことは一度に続くものである。

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