軽井沢の冬 Vol.9

軽井沢の冬:逃げるは恥?田舎出身の真面目ママ、お受験戦争で港区女子に完敗。

仕事でも恋愛でも、常に勝ち負けを意識し戦闘態勢を崩せない東京人たち。

人生の冬を迎え、心が渇いてしまったら、東京から1時間のオアシス・軽井沢で己を見つめ直すと良いかもしれない。

軽井沢で、東京人たちを出迎えもてなしてくれる女性がいる。美希、35歳。

これまで様々な東京人が美希の元で心の平穏を取り戻したが、今度は美希自身にも、夫・誠司の浮気が発覚

絶望する美希の前に、美希の元カレで、軽井沢に別荘を買った雄一が現れるも、別々の人生を歩む2人はすれ違うのだった。


逃げていたら、何か変わった?


「美希ちゃん、よく来てくださったわね。誠司さんも、お元気そうで何よりだわ。」

三笠通りの邸宅でフラワーアレンジメントサロンを主宰しているマダム小暮が、頭についた仰々しい羽を揺らして、誠司と美希を迎えた。

「マダム!ご無沙汰しております。」

マダム小暮のことを、軽井沢社交界で知らぬものはいない。推定57、8歳、実年齢は不詳。昔は別荘民だったようだが、近年は軽井沢に定住。著名な政治家の愛人だという噂がまことしやかに囁かれている。

今日は毎年恒例、マダム小暮邸でのクリスマスパーティーに夫婦で招かれたのだった。

「いつも妻が、お世話になっております。」

軽井沢駅に隣接する『Au Depart』で買ってきた、東御市産のロゼワインをマダムに手渡し、卒なく挨拶をする誠司。マダム小暮は、誠司、そして隣に笑顔で寄り添う美希を交互に見遣り、満足そうに微笑んだ。

「いつも仲がいいわね。」

美希は何も言わず、よそいきの笑顔を、ただキープする。2人の間に流れる冷え切った空気が、マダムには届かなかったようでほっとした。

―これじゃあ、まるで仮面夫婦だわ。

美希はそんな風にしか存在できなくなってしまった2人が、ただ、悲しかった。

いたたまれなくなり、そっと誠司から離れる。会場の隅で1人佇んでいると、思い出されるのは雄一のことだ。

あれから連絡は、ない。しかし、美希を心配しているに違いない。『ツルヤ』で再び会った雄一は、学生時代と変わらない笑顔で美希を包み込んだ。

あの時、雄一の胸の中に逃げ込んでいたら―。
離ればなれで過ごした10年の月日なんて、すぐに埋まった気がする。

10年積み重ねてきた夫婦の絆が、一瞬で崩れ去るのと同じ速さで。

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