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みりんと俺 Vol.1

みりんと俺:真面目だけが取り柄の理系SEが彼女にフラれて気づいた「モテ」願望

ノー残業デーのいつもと変わらないある日、彼女からの衝撃告白…


「じゃあ、荷物は平日に私が健太郎の家に行ってまとめて段ボールで送っちゃうね。」

電話越しの典子の声は一刻も早く切りたそうな感じで、こうして俺と典子の5年にわたる交際は呆気なく終わりを告げた。

別れを告げられたのは突然だった。水曜日の19時。この日はノー残業デーなので、典子が夕食を準備してくれていた。大手飲料メーカーに勤める典子は料理上手で、煮物と魚、おひたしやらきんぴらなんかの細々とした副菜までいつも手際よく作ってくれていた。


―美味しいなぁ。

ちょうどいい温度の味噌汁をすすりながら、いつも通り幸せな気分だった。言葉にはしないがいつも顔に出る性分で、この後別れ話をしようとしていた典子の気持ちなんて知らなかったから、かなり間抜けな表情をしていたと思う。

「実はね、私好きな人ができたの。だから健太郎とは別れたい。」

飲んでいた味噌汁を思わず吹き出してしまった。

「え…。嘘だろう?」

真面目が取り柄の理系SE、商社マンに敗北


俺たちはどこからどう見ても似合いのカップルだったはずだ。

本性は理系の冴えないSEだけど、背だって低くないし顔だってそんな不細工でもない。ダテ眼鏡とシンプルな服の雰囲気でSEの中ではそこそこお洒落な方だと思われる俺と、決して美人ではないけれどその分愛嬌と気立ての良さで生きてきた典子。

平凡でささやかな幸せを2人で築いてきたはずだ。それなのに…。俺は心の底から裏切られた気分だった。

珍しく動揺してしまい、典子が好きだという相手の素性をしつこく聞いてしまった。詳しくは教えてくれなかったが、早稲田卒の商社マンだというところまで聞き出せた。

商社マンなんて、いかにも女の子が好きなチャラ男がいそうな感じで、俺は心配になった。

そんな男が好きだと言う典子も、遠い存在に感じた。

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みりんと俺

半同棲していた彼女が、「他に好きな人ができたの」と言い、俺の部屋を出て行った。

彼女の気配が98%消えたガランとした部屋で、気を紛らわすために開けた、キッチンの戸棚。

そこにあったのは調味料。料理をしない俺には関係のないものだと思ってた。塩や胡椒は食べる時に使うのでわかる。ただ「みりん」だけが見覚えがなかった。

部屋に残された、みりんと俺。

みりんを見て、料理ができるようになると、何かが変わるかもしれない。そう思ったんだ。

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