
みりんと俺:真面目だけが取り柄の理系SEが彼女にフラれて気づいた「モテ」願望
半同棲していた彼女が、「他に好きな人ができたの」と言い、俺の部屋を出て行った。
洋服や化粧品など彼女の荷物は、知らぬ間にダンボールにまとめて送られていた。
そんな彼女の気配が98%消えたガランとした部屋で、気を紛らわすために開けた、キッチンの戸棚。
そこにあったのは調味料。料理をしない俺には関係のないものだと思ってた。塩や胡椒は食べる時に使うのでわかる。ただ「みりん」だけが見覚えがなかった。
部屋に残された、みりんと俺。
みりんを見て、料理ができるようになると、何かが変わるかもしれない。そう思ったんだ。
理系出身の冴えないサラリーマン・健太郎の平凡な日常が壊れた瞬間
俺の名前は健太郎、30歳。東京理科大を出て、豊洲にあるIT系の会社でSEをやっている。
毎日コツコツ真面目に働いて納期に遅れたこともないし、プロジェクトリーダーの無茶ぶりにもいつも淡々と応えている。そんな風に働くことを、世間的には「社畜」って言うのかもしれないけれど、こんな自分の生き方はそれなりに気に入っている。
高望みする性分でもないし、身の丈は分かっている。忙しいけれど決して嫌いではないSEの仕事、そこそこの給料。そして何より平凡で幸せな生活を支えてくれていたのは、大学時代から付き合っていた彼女、典子の存在だった。
彼女とは、大学の天文サークルで一緒だった。顔は正直そこまで可愛いという訳じゃないけれど愛嬌のある子で、元AKBの川栄李奈に似ているとよく言われていた。お洒落ダテ眼鏡で何とかごまかしているけれど、中身がオタクな俺には「もったいない」と何度サークルの仲間にからかわれたことか。
典子と付き合ったのは、大学卒業後、サークルの集まりに久しぶりに顔を出したのがきっかけだった。隣の席になった彼女にフジロックの話をしたら、同じ日程で行くと分かって、しかも好きなバンドも同じ。そこから急接近した。
その後何度か2人で会ったものの、チキンな性格が災いしてなかなか告白できなかった。そんな俺を見かねたのか、神宮の花火大会に行った帰り道、彼女から手をつないでくれて、そこからほぼなし崩し的に付き合い始めた。
俺が25歳、典子24歳の夏だった。
そこから丸5年。考える限りうまくやってきたはずなのに、どこで歯車が合わなくなってきてしまったのだろう?
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