さすがに秘書軍団たちも、それ以上会話を続けることはなく、「それでは」と言って、ふわりと爽やかな香りを残して、自分たちのテーブルへと去って行った。
その後ろ姿を睨んだあと、顔を正面に戻せば目の前には、浮かれた様子の頼樹がいる。久美子の気の強さを目の当たりにしながらも、彼女たちにおだてられたのが相当嬉しかったようだ。
認めたくなかった、“嫉妬”している自分・・・
「いやーこんな偶然ってあるんだな。それにしても彼女たちのあのオーラ、ヤバいよな。」
今日、久美子の事を褒めてくれた頼樹は、もう遠い過去の人のように感じる。
「ちょっとデレデレしすぎじゃない?あんなの、うわべだけのお世辞に決まってるじゃない。」
「もちろん分かってるよ。でもお世辞と分かってても言われて悪い気はしないからさぁ。やっぱ、可愛い子たちは男の扱いが上手いよな。久美子も山崎さんと仲良くなって見習えば、女子力上がるんじゃない?」
頼樹の言葉に怒る気にもならず、久美子はがっくりと肩を落とした。頼樹は、嫌みでも何でもなく、時にサックリ久美子を傷つける言葉を吐く。
僅かに見える、彼女たちの姿。時折、奈緒の高くて耳障りな笑い声が聞こえてくる。
―あれって絶対アピールだよね。わざと大きい声なんか出して……!
せっかくの楽しかったデートが台無しになってしまった。まさかこんな所で会うとは思いもよらず、さっきまでの楽しかった気分は一気に吹き飛んでしまった。
―それにしても……
久美子はチラリと奈緒がいる方を見る。彼女たちの華やかな雰囲気ときたら、嫉妬せずにはいられない。
自分が負けを認めたようで“嫉妬”という言葉は使いたくなかったが、今日の所は認める事にした。
自分なりに意気込んできたデートだが、彼女たちに比べるとまだ女性として負けているのは明らかだった。そしてその事実は、久美子の負けず嫌いにさらに火をつけた。
食事を終え一人で家に帰ると、久美子は決意を新たにした。
―自分を磨こう。それも徹底的に。“脱ぎ捨てられないもの”で、私らしく。
CMの菜々緒の、あの力強い瞳と声に背中を押される想いだった。
―あんな女に、絶対負けない…!
そして、明日から始まる1週間に向けて入念にメンテナンスをした。湯船に浸かり、いつもの「トリコン」で髪をケアして、負けられない戦いへの戦略に、思いを馳せる。
だが、この数週間後、久美子は頼樹の口から衝撃の言葉を聞くことになった。
「山崎さんの合コンに行くことになった。」
悪びれもせず報告してくる頼樹に、久美子はもはや目眩すら覚えたのだった。
次回、11月4日(金)更新
頼樹は合コンに行ってしまうのか?!一方で、変わり始めた久美子を気にかける男が現れる!